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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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丁々発止で(6)

 闇に吸い込まれた応射のビームの群れはなんの手応えも寄越してくれない。一瞬だけ瞬いた光が敵スナイパーを移動させたのだろう。今となっては再び居場所は不明になった。


(当然だ。位置さえ掴ませなければ狙撃手に敵はいない。奴もそれを熟知している)

 ムザにも常識の事実。

(ただし、この距離で正確に当ててくるのが常軌を逸してる)


 なに一つ遮るものもない宇宙空間。極めて発達した光学センサーやカメラ。自動検知や解析のシステム。それらが彼らを淘汰して、重要性を失わせてきたきただけ。

 もし、その枠の向こう側から狙撃できるならばスナイパーは最強だ。一撃で敵を墜とし、悠々と移動して次のターゲットを狙えばいい。それが今対峙している敵の怖ろしさである。


「これだと……、動けませんよ」

 ナッシュを怯えさせ、支援部隊を縛り付けている。

「だが! だが、だ! 奴は一機でしかない。自分たちが克服できなかった難題を抱えているのは同じだ。一手目の攻撃をしのげば勝機はある」


 回避できないほどの密度の応射を喰らわせればいいとムザは考える。偶然に頼らねばならないが直撃を奪えればベスト。そうでなくとも敵を遠ざけることはできる。くり返せば数の圧力に屈するしかない。


「集中しろ。タイミングを合わせて面攻撃をする。外すな。密度を上げろ」

 彼は命じる。


(大丈夫だ。スナイパーの欠点を一番知っているのは同じスナイパーである自分たち。対抗できるのもな)


 信じて待つ。再び狙撃された。少しズレた位置からだがズレが問題である。わずかな位置の違いを掴むのに味方の損害を受け入れるしかない。


「なんでこの距離で当て……、ひいぃ!」

「ベイルアウトしろ!」

「間に合わ……!」


 爆炎が二つ起こる。動揺が走るも、言い含められていた支援機グループは即座にスナイパーランチャーを向けた。ムザの号令で同時斉射を行い、敵のいる位置を面攻撃する。


「当たれよ!」

「お願い。光って」


 願いは虚しく宇宙に吸い込まれる。無念を示すように続けて数射を送り込む友軍機もいるが成果はない。


「あきらめるな。効果はある。今のと同じ攻撃を受けたときを想像してみろ」


 大きく回避せねばいけない。不運にも隙間を縫って直撃する一発がないとも限らないからだ。たった一発が自身の命を奪うか戦闘不能にし、帰る術さえ失わせる可能性はスナイパーを臆病にする。


「少なくとも数度で限界が来る。奴は二度と同じ手を使えなくなるだろう」


(数を減らせればいいと考えているか。あるいは我々を足留めできれば自軍を勝利に導けると思っているか。だが、貴様は幸運という手札を切り続けているぞ。今に手元になくなる)

 それが勝利の瞬間である。


 ムザは味方が耐えてくれると信じた。


   ◇      ◇      ◇


「まだぁ?」

『そろそろかなー』


 操舵室(ステアハウス)で窓外を見つめているクーファは投影パネルの中のピンク髪の操船AIに問う。期待していなかったのに、返事は悪くないものだった。


『ターゲットリンク正常。発射準備よしー』

「撃てぇ!」

『いや、まだ早いからー』


 暇を持て余していた。


   ◇      ◇      ◇


 何度目かの面攻撃応射をしたとき、遠くで紫色の光が確認された。ビームとリフレクタの干渉光である。避けきれずに受けたのだ。


「見つけた! 攻撃!」

 ムザは勝機を見た。


 スナイピングビームの発射予測位置ではなく明確な敵の位置だ。機体システムが光学センサーで捉え照準補正を行う。かなりの精度の狙撃を全機で行えば避けられるものではない。


(終わったな)

 相手の幸運の手札は尽きたのだ。


 重かったトリガーボタンが軽い。システムの補正が終わるのももどかしく押し込もうとした刹那、支援機グループを雨が打った。


「なんだとぉ!」

「嘘! 瞬間移動した?」


 真上からスナイピングビームが降ってくる。それだけでも恐怖なのに、あまつさえその照準は正確無比に友軍機を捉えている。無警戒だった味方は容赦なく貫かれて爆散していった。


「なぜだ! 急に!」

 ムザのゾフリータが直撃を受けていないのは幸運でしかない。

「あんな位置にいるはずが……!」


 雨がやんだとき、彼らは壊滅的な状況になっていた。五十機いた支援機は半数以下になり、生き残った機体も大破が多い。戦力として成立していない。


(自分が生き残れたのは反射的に動いたから)

 ビームが落ちてきたと思ったときにはフィードペダルを踏んでいた。

(敵の想定位置に集中していたならば躱せるはずもない)


 それほどの密度の斉射だった。とても一機のアームドスキンが撃てる量ではない。


(一機ではない? まさか奴も部隊を隠し持っていたと?)


 ビームが降ってきた位置で金色の光が瞬く。光はスーッと流れていくと、また消えた。特殊な機動砲台のようなものか、それがなんだったのかはわからない。


「む、友軍は?」

 改めて思い出す。

「しまった。時間を費やしたばかりに」


 撃破までいかなくとも敵戦列(ライン)に圧力を掛けていた彼らの支援はなくなった。進撃を阻止する術がなくなり、敵新型アームドスキン部隊は自軍を圧倒してしまっている。


(敗北、か)

 アデ・トブラ軍の撤退信号が戦場に流れる。


 ムザと彼の隊を含めた残存機は母艦に帰投すべく急いだ。

次回『溺れた挙げ句に(1)』 「パティシエさんの気概を感じます」


*本日よりゴールデンウイーク更新を開始します。いつもの時間に二回分更新しているのでお楽しみください。

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