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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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丁々発止で(5)

 アデ・トブラ国軍自慢のスナイパー部隊の狙撃はモンテゾルネの新型アームドスキン『スフォルカント』の戦列の壁に阻まれている。ほぼ仕事をさせてもらえない状態で同じ支援機グループに埋もれているのをルオーは眺めている。


(この前は遠距離からの撃ち合いで退場しなくちゃいけなかった。不意打ちとはいえ奇襲部隊のときも似た感じだよねぇ)

 くり返し失敗している。

(こういうとき、どう考える? とにかく遠距離での応酬に徹して僕を圧倒し、前衛に討たせるか。あるいは無視して敵軍を崩すのに専念するか)


 今は後者を選んでいる。前回の戦闘で、戦力を傾注して大敗を喫したからだ。同じ轍を踏まないためには本来の目的、自軍の勝利に貢献しようと考えた。


(どちらにせよ、まずは僕がどこにいるか掴んでいないと気が気じゃない。いつ撃たれるか迷いが生まれるからねぇ)

 どこからの狙撃に警戒していればいいかわからない。

(この場合、僕の姿が見えないのが一番効果的だよなぁ。だって身動きできなくなるから。そのうえで上手くいかないとなると焦れてくる)


 従来の働きができていれば気にならないのだろうが、それもままならないとどうなるか。動かないとならなくなる。


(その瞬間が最も警戒心が弱まるとわかっててもねぇ?)


 ルオーは射線の出元を観察しながらスナイパーランチャーを構え続けていた。


   ◇      ◇      ◇


「お前ら、いいよな。どっちかっつーと、いつも安全な場所でビーム撃ってりゃいいんだもんな」

「ああ、ダモンみたいに敵の真ん前に出てって討ち死にしなくていいんだからよ」

「お前があの敵を撃ちもらしてなきゃ、あいつは死ななくて済んだんだよ。なんとか言えよ、こら」

「…………」


 過去のやり取りが蘇る。ムザは答える言葉を持たない。幾度となく同じ経験をしてきた。それが単なる八つ当たりだと理解していても、言葉の槍は彼の心に突き刺さってくる。


(このままでは、また同じところに戻る)


 パイロットの輪の中で、戦場で命のやり取りをする同じ境遇の中で下に見られ、負ければ非難の的にされる。戦友を失った者は彼らを捌け口に使う。ムザの隊に属するメンバーは似たような経験を何度となくしてきた者ばかりだ。


(精神的に追い詰められた状態だからといえばそれまで。しかし、我らとていつまでも耐えられるものではない)


 耐えられなくなればどうなるか。心が少しずつ足を前に出させるのだ。宇宙は、地上という遮蔽物がなければ役に立たない環境と違う。ターナ(ミスト)というレーダー照準を奪う環境では、なにもない真っ更な空間は純粋に距離がものをいうからだ。


(そうやって無理な前進を強いられ皆が死んできた。スナイピングに特化した人間が前衛と同じ位置に出て生きていられるわけがない)


 ゆえにスナイパー部隊を創設することで状況の改善を試みた。一人では心許ない。複数の目を持つことで穴を極力小さくすることに成功した。いつしか最強の部隊と呼ばれるようになる。


(だから奴にも前衛をぶつけることで剣士(フェンサー)に始末させようとした。それなのに生きている)

 強く意識せざるを得ない。


「このままじゃ昔に後戻りじゃんかよ。そんなのやってられっか。前に出ようぜ。それで敵を撃てるんだ」

 ツワラドの声には明らかな焦燥感が含まれる。

「また文句ばっかりの日々に逆戻り? そんなの嫌よ」

「……ぼくらだけで前に出る必要はありません。支援部隊全体で動けば問題ないでしょう。火力で敵軍前衛の戦列に圧力を掛けましょう」

「そうね。腕は落ちるにしても数を使えばいいんだわ。ムザなら指揮権が与えられてるんでしょ?」


 隊員は前進を主張する。ナッシュも安直ではない対案を上げてきた。現状を打破する気持ちは皆一緒だ。


「…………」

 ムザも提案に乗りたいが、味方を撃破された過去の経験が邪魔をする。

「待ってられるか。狙える位置に行くぞ。前進だ」


 酔いも手伝い、痺れを切らしたツワラドが何度か左手を大きく前に振る動作をする。危機感に駆られていた支援部隊がそれを見逃しはしない。スラスターの光が一斉に瞬き、残っていた支援部隊全体が前進を開始する。


(止められないか)

 ムザもあきらめが胸中を占める。


「かっ!」


 その瞬間、スナイピングビームが走った。部隊からではない。彼らにめがけてである。


「真横かよ!」


 ツワラドのゾフリータは、たまたま横を行き過ぎようとした友軍機に救われる。直撃を受けたその機体は、長い宇宙空間を貫いて拡散しかけたビームの物理成分に叩かれ上半身装甲を含めた表層のほとんどを持っていかれる。

 露わになった操縦殻(コクピットシェル)と損壊した対消滅炉(エンジン)が彼らの目に映った。次にはエンジンが火を噴き、それに飲まれて全身が誘爆に包まれる。


「ぬぉっ!」


 一射を皮切りに次々と宇宙を貫通してくるスナイピングビームは正確に支援機グループを狙っている。リフレクタをかざして対抗するも隙間を縫った光条に機体を揺らし直撃を受けて爆散した。隣でイルメア機のスナイパーランチャーが被弾して誘爆するに至り我に返る。


「応射しろ! 撃たせるな!」


 ムザの遅きに失した命令は敵スナイパーの撃墜に及ばなかった。

次回『丁々発止で(6)』 「一手目の攻撃をしのげば勝機はある」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 狙撃って基本は1対1なんですよね。
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