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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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丁々発止で(4)

 戦闘は次の段階に進む。モンテゾルネ軍としては、勝利して撃退したとしても領宙内に敵国艦隊を抱えているわけにはいかない。敗北を認めるのでなければ、自国に撤退させるのが講和の前提になる。


「ライジングサンの二人はどこに配置なさるおつもりですか、司令?」

 指揮ブースのデヴォーに参謀官が尋ねてくる。

「知らない。一番効果的なところにいるからって」

「は、そんな好き勝手をお許しになられたんで?」

「だって、二人の強みは彼らが最もわかってるし」


 ただの後方支援ではもったいない。囮に使おうにも、流石に二度目は掛かってくれまい。見えるところに置いてもそれほど効果はないと思える。


(突出しすぎていると軍に組み込むのは難しいもの)

 困っていると彼らのほうから提案された。


「潮目を間違えるなって。私が見落としていたら教えて」

「そんなだいそれたことを」

「買いかぶりよ。わかりやすければいいって祈ってる」


(信じるしかない。最初、奇襲部隊を囮に使うって言い出したのもルオーだったし)


 遊兵として考えたほうがいいと決めたデヴォーだった。


   ◇      ◇      ◇


(領宙も浅いだけに補給を絶たれる心配はないにしても)

 これ以上退き場所がない位置まで押し戻されているとムザは感じている。


 領宙の外での戦闘を禁じられているわけではない。しかし、公宙(ハイスペース)となると星間管理局の管轄になる。星間(G)平和維(P)持軍(F)の監視下での会戦は避けたいとどこの国も考える。


(ここでの敗戦は仕切り直しになろう。本国はおそらく艦隊を撤退させる。戦争の続行を選ぶか、技術者の返還に応じて講和となるかはわからん)


 ゼオルダイゼに同盟軍の派遣を請えば、余程のことがないかぎり勝てる。ただし戦後、アデ・トブラの同盟内の地位は低くなるだろう。


(国力が落ちて見限られれば搾取の対象にされる。軍事同盟も弱肉強食の世界だ)


 本国を一時のメーザードのようにしたくはない。ならば勝利を掴まねばならないのだが、どうにも後手を踏まされていた。


(敵軍からの情報が途絶えたという。スパイが露見したものと思うべきだ。手の内を読む術を失ったとなれば奴がどこにいるかも見えない)


 前回は民間軍事会社(PMSC)のスナイパーを囮に使ってきた。今回も同じ手を使うとは思えない。振りまわされないためにも位置を知っておきたかったが、やはり先手を打つのは困難だろう。


「あの黄色は目立つのに」

 イルメアが吐き捨てるように言う。

「傍にいるとはかぎらん。不用意には仕掛けられまい」

「撃ってみりゃわかるだろ、大将」

「安易にこちらの位置を知らせてどうする」

 ツワラドは安直にすぎる。


 戦列の中央付近に配置されているとわかっていたとて、大軍の中でさえ彼らの位置を見極めてきた敵である。相当電子戦能力は高いと思っていい。だから、あえて今回はセオリーを外して左翼に混じっていた。わざわざ教える必要もない。


「気にしすぎないほうがいいと思います、隊長」

 ナッシュが提案してくる。

「戦闘が激化すれば必ず動くでしょう。モンテゾルネも勝利したとはいえ攻め込まれているのは事実です。負けられないのは我が軍だけじゃありません」

「だろうな。だが、どこから崩しにくるかくらい読めればマシな展開を期待できるものを」

「無理にあれを抑え込もうとしなくていいんです。ぼくらは敵軍本隊を切り崩せばいい。あえて先手を打たせて、あとは前面部隊に仕留めさせましょう。あれだって、我が軍全てを撃墜できるわけじゃない。押し包めば勝ちです」


 ナッシュの理屈は間違っていない。スナイパー、たった一機でなにができるか。それを痛いほど知っている。


「でも、なんか引っ掛かるのよ。負けた気分っていうか」

「沽券に関わるってやつだ。今後、軍内部で軽く見られるのも癪だろ?」

「いや、ナッシュが正しい。こだわりは捨てて我々がするべきことをしよう」

 それがムザ隊の威信を保つのに最適なのだ。


 そう決めて進撃する前面部隊の支援に徹する。ところが、狙撃がいつものような効果を発揮してくれない。


「なんてこった」

 ツワラドが苦い声を出す。

「食われてる。なんてパワーなんだ」

「モンテゾルネのスフォルカント、侮れないってこと?」

「敷いてきたか」


 これまでであれば彼らのスナイピングビームが敵機の力場盾(リフレクタ)を叩けば扉が開く。貫通力があるので直撃したときの破壊力は低くとも、減衰しにくい高収束されたビームは反動が大きい。揺らいだところを二射目三射目で墜とせる。


「ビクともせんか」

 リフレクタを支えて前進してくる。

「崩しが利かない?」

「このままじゃ前衛同士が消耗しないままぶつかるな。あれほどのパワーの敵機と正面衝突なんてゾッとしないぜ」

「我が軍が先に崩れかねんな。あの戦列にどうにか穴を開けねば」

 一点を狙わせるものの、一機を押し下げても隣や後ろから埋めてくる始末。

「もっと近づかなきゃ。リフレクタだって全身を覆えるんじゃないもの。隙間を狙えるだけの位置まで前に」

「自重しろ。前に出れば相手の思う壺だ、イルメア。敵前衛に直接狙われる羽目になる。それに、動いたところを奴に狙われたら……」


(前衛近くでスナイパーランチャーを失おうものなら的にしかならん。絶対に不用意に動いてはいけないのだ)


 ムザは効果的な攻撃ができない自分たちの隊に歯噛みした。

次回『丁々発止で(5)』 (このままでは、また同じところに戻る)

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更新有難う御座います。 防御は最大の攻撃?
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