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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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丁々発止で(2)

「無理だって。ルオーのσ(シグマ)・ルーンに会話は全部記録されてんだぜ」

 パトリックの台詞にルオーも頷く。


 頭の装具(ギア)を操作すると録画された先ほどの会話が再生される。投影されたパネルの映像は参謀官の表情の変化までつぶさに記録されていた。


「申し開きは?」

「司令、これは罠です! こいつらは……!」

 足掻きを見せるもデヴォー・ナチカの視線は冷たい。

「警備、連れてって吐かせて。どうせアデ・トブラに買収されたんでしょうけど」


 駆けつけた警備兵が参謀官を連行していく。その後、全員がソファーに移動してクーファお待ちかねの接待タイムが始まった。


「ここのお菓子、美味しぃ」

 前例があるので彼女のトレイだけ大盛りだ。

「これくらいしか楽しみがないから良いものを取り揃えているの」

「司令の楽しみを奪うものではありませんよ。遠慮しましょうね、クゥ?」

「ごめんなさぃ」

 耳が垂れる。

「いいのよ。十分に仕入れてあるから」

「じゃ、取り替えっこするぅ。クゥもいっぱい持ってるからぁ」

「それがいいですね」


 二人で集めた菓子類がライジングサンにも大量に積んである。デヴォーにも新しいジャンルのスイーツを提供できよう。


「ライジングサンを近くに着けますし、不便はないはずです」

 呼び寄せるつもりだった。

「ルオー、あなた、スパイに情報を与えないために船を接近させなかった?」

「はい。いただいた事前情報から漏洩疑惑がありましたので。ちょっとゼオルダイゼ同盟とは因縁がありまして、こちらの正体がバレると目の(かたき)にされそうなんです」

「ふぅん」

 デヴォーは興味深げに窺ってくる。

「私も少々疑惑を感じているのよ」

「なんのことでしょう?」

「あなたたちの正体」


 ズバリと言ってくる。あまりに意外な方向から疑惑の目を向けられてしまったので彼は戸惑った。


「これ」

 デヴォーがコンソールを操作して映像を流す。

「この前の戦闘。あなたのルイン・ザっていうアームドスキン。相手は分析結果からイオンスリーブ搭載型ゾフリータって判明した。それを片手で扱うスナイパーランチャーで叩き返してる。これってまともじゃない」

「確かにイオンスリーブ搭載機でもパワー負けしません。それだけ高性能機ではありますが、それが疑惑に感じられますか?」

「もしかしたらの話よ」

 司令は前置きする。

「二人って星間管理局、もしくは星間(G)平和維(P)持軍(F)の極秘エージェントかなにか?」

「はい? どうしてそうなるんです?」

「民間の普通の民間軍事会社(PMSC)が持っているような機材じゃない。余程の資金力がないと無理」


 体力のある大手の軍事企業でなければ実現できないと彼女は考えた。しかし、調査でそんな背景は出てこない。結果として、エージェントだと推理したようだ。


「なんでそんな結論に? 仮に僕たちがエージェントだとしたら、なんで司令に協力するんです?」

 矛盾点は多い。

「例えばゼオルダイゼ同盟を疑っているとか。あまりに強引な拡大政策を執っていて周囲との摩擦を起こしてるでしょう?」

「裏になにかあるかと?」

「ええ、管理局の情報部が探っていてもおかしくない」

 推理が飛躍している。

「残念ながら、ライジングサンはそんなドラマみたいな格好いいもんじゃありませんよ。半分は僕の道楽で始めたような零細企業です」

「答えになってない」

「と言われましても答えようがないんです」


 ルイン・ザがかなり高性能機なのは乗っているルオーが最も自覚している。しかし、その理由を問われても知らないのだから答えられない。


「知ってる人に訊いてみます?」

 疑いは晴れないので提案する。

「クガ司令とかはやめて。私でも首を突っ込めない」

「いえ、もっと身近な協力者ですよ。ティムニ?」

『はいはーい』

 σ(シグマ)・ルーンから飛び出したデフォルメアバターがテーブルの上に降り立ちクルクルと踊る。

「この子は?」

「僕にルイン・ザを託したのは彼女です。構造を知ってるのはティムニなんですよ」

「そうだよな。オレのカシナトルドを整備してるのもティムニだしな」


 ライジングサンの操船AIを紹介する。会話の流れを説明し、弁明するだけの根拠が必要だと説いた。


『知りたいのはあたしのことー? それともルイン・ザのパワーの秘密ぅー?』

 フィギュアじみた美少女アバターは顎に指を当てる。

「どっちも、と言いたいところ」

『前者はプライベートだから駄目ぇー。後者は簡単、駆動系に使ってるのはマッスルスリングだからー』

「マッスルスリング? まさかヘーゲルの?」

 ルオーは知らなかったがデヴォーは知っているらしい。

『新駆動機の両極、イオン系とマッスルスリング系のあとのほうー』

「今、星間銀河圏で最強特許(パテント)の一つなのに?」

『権利者の許可もらってるから問題なしー』


 イオン系駆動機に関してはルオーにも知識があった。パトリックのカシナトルドがその最高峰と謳われていたから調べたのだ。だが、マッスルスリングは初耳だったので自分でも調べる。


「これですか、ルイン・ザに搭載されてるのは」

『そう、イオン系と違ってライジングサンの船内でも生産してストックできるし、パワー的にも遜色ないしー』

「ベース機体が存在するって言ってましたけど、ヘーゲル社のアームドスキンを改造したんですね」

『んふふー』


(腑に落ちない点はあるねぇ。現在、最も発注が難しいアームドスキンって書いてあるけど)


 ルオーはなんともいえない目で得体の知れない相棒(ティムニ)を見た。

次回『丁々発止で(3)』 「ほんとに面白い青年(ひと)

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