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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
136/353

丁々発止で(1)

 開戦後、初めてアデ・トブラ艦隊を押し返したモンテゾルネ軍は喜びの中にある。精鋭部隊の到着も全体のモチベーションを上げるに十分であった。


(気分はわかるけどねぇ)

 ルオーは頭を掻く。


 旗艦クーデベルネの艦内もどこか浮かれた雰囲気だ。以前より多くの要員が行き来しつつ互いに健闘を讃える。その中を彼はクーファと一緒に歩いていた。


(問題はまだ山積なんだけどなぁ)


 だからといって咎める気にはなれない。モチベーションの維持は指揮官が最も腐心する部分である。デヴォー司令の気も軽くなっているであろう。


(お土産もできそうだし)

 二人の姿を追うように近づいてきた人物があった。


「やあ、活躍だったね」

 壮年男性がにこやかに話し掛けてきた。

「どうも」

「司令に呼ばれたのかい?」

「いえ、契約内容の見直しをお願いしようかと」

 自己都合であると答えた。

「なら、面会手続きが必要だな。私が段取りしよう」

「お願いできます?」

「ついてきなさい」


 見覚えのある顔だ。契約締結時にデヴォーの後ろに映り込んでいた記憶がある。おそらく側近なのだろうと思っていると参謀官の一人であると名乗ってきた。


「さっき、僕の活躍だっておっしゃいましたよね?」

 先を行く背中に話し掛ける。

「違うかね?」

「この時点での攻勢は予想されていたはずです。新型アームドスキンの前線投入は事前にわかっていたんですから」

「無論だ。しかし、想定のかぎり最適の運用がなされての戦果だろう? その鍵のなったのが君たちの存在に他ならないと思っているが」

 褒めちぎられる。

「噛み合ったのは事実です。ですが、その偶然の幸運を必然にしたのはデヴォー司令のお力であり、あなた方参謀官の任務でもあるでしょう?」

「そうだが、君に関しては司令独断での動員で我々の関知しないところだったんだ」

「だから折り込むことができなかったと」


 先導されたルートは中央通路(センターパス)から外れている。いつの間にか周囲に人けがなくなっていた。幹部の私室が並んでいるあたりか。


「任務を奪われたとは思っていない」

 司令が一人で手柄を持っていったと訝られたと思ったか。

「いえ。ここは五分か、付け入る隙があれば優勢に持っていく算段だったのが目算が外れたんでしょう? で、何者か探りを入れにいらっしゃったと」

「なにを言っている?」

「不審に思わないとでも? 確かにアデ・トブラのスナイパー隊は勇名を馳せていますけど、常に迎撃体制を敷いておけるようなものではありません。では、なぜ司令の間隔攻撃(ラグアタック)は全く効果が出なかったのでしょう」

 今や参謀官は立ち止まり、鋭い視線を向けてきている。

「奇襲部隊が来るのがわかっていたからです。もしかすると、その編成まで」

「情報をもらしているスパイが入り込んでいたというのだな」

「ええ、司令の身近に。例えば、参謀官とか」


 手の中にはレーザーガンが現れていた。躱しようもない至近距離である。それなのにルオーは自分のガンには手を伸ばさず、クーファを背後に隠すしかしていない。


「暴いたつもりか? 残念ながらこのルートの監視カメラは普段は生きていない。非常時のみのものだ」

 証拠が残らないという。

「迂闊だったな、相手の手の内で罠を仕掛けるとは」

「そうでもないです」

「ブラフを。その体勢から先に抜き撃ちできるわけがない」

 ルオーがσ(シグマ)・ルーンを指で叩くと3Dモデルが投影される。

「艦内図!? 貴様、最高レベルの機密を!」

「その前に、これを持っている意味を考えべきです」

「く!」


 その時には参謀官の手はひねり上げられている。後ろにはパトリックの姿があった。


「悲しいくらいにお前の予想は当たる」

 色男は苦笑い。

「失敗を取り返さないと立場がなくなります。必ず探りにくると思いません?」

「まあな。それで囮に見事に釣られたと」


 パトリックとは事前に打ち合わせてあった。彼らが旗艦クーデベルネを訪ったのもそれが目的である。知っていたのでクーファも怯えることはない。


「どうするのぉ?」

 両腕を拘束し、騒がないよう口まで押さえられている参謀官を指してクーファが言う。

「デヴォー司令へのお土産です。引き渡して帰りましょう」

「お菓子もらえるぅ?」

「お茶くらいはご馳走してくれると思います」

 すでにご機嫌の猫耳娘を従えて司令室へ。

「ルオーです。少しよろしいですか?」

「ええ、どうぞ」

「失礼します」


 ドアパネルでコールすると即座に返事がある。中からこちらの様子は見られていると思っていい。


「釣れちゃったのね?」

 ドアの向こうでは眉根を寄せたデヴォー・ナチカがデスクに着いている。

「残念ながら。ご入用ですよね?」

「これから巻き返しを掛けようというのに、こちらの情報が筒抜けでは困るもの」

「では、お渡しいたします」


 パトリックがレーザーガンを取り上げた参謀官を放して押し出す。たたらを踏んだ男は射殺すような視線で睨んできた。


「司令、この者らを拘束してください! 案内をしていた私を急に襲ってきて……」

 言いがかりを付けてくる。

「へぇ」

「こいつはアデ・トブラのスパイなのではないかと。口を割らせなければ」

「そういえば、あの通路だと証拠が残らないっておっしゃりましたね」


 ルオーはため息を吐きつつ濡れ衣を着せようとする参謀官を見た。

次回『丁々発止で(2)』 「私も少々疑惑を感じているのよ」

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