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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ

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詰めたつもりが(6)

 威勢そのままに突っ込んできたアデ・トブラのアームドスキン部隊は退くにも退けず、半包囲するモンテゾルネの精鋭と激突中。新型機スフォルカントの前に崩壊の序曲を奏でていた。


(あっちは心配ないとして)

 ルオーは包囲する機体の中にパトリックのレモンイエローのカシナトルドも認めている。


 かろうじて包囲を抜けてきた七機のうち四機までは狙撃で減らす。残った三機が正面から逸れ、ブレードを抜いて迫ってきた。


(詰めたと思ってるよねぇ?)

 純粋なスナイパー相手ならすでに致命的な間合いである。

(僕だって身を犠牲にしてまで囮になったつもりないし)


 右手でロングバレルのスナイパーランチャーを支えたまま、左手に持たせたビームランチャーで真横からの一機を迎撃。予想だにしていなかったか、真正面からの直撃で爆散する。

 爆炎から機体を滑らせつつ、もう一機に右肩から当たりに行って押し退ける。脇から抜いたビームランチャーを発射して撃破。


「貴様、いったい……!」

「白兵戦は無理ですけど、ガンアクションができない距離じゃないんですよ」

 降伏勧告でもする気だったか、オープン回線で呼びかけてきた相手に応じる。


 背中から斬りつけてきたところへ振り返り、腕ごとロングバレルの筒先で巻き取って逸らす。がら空きになった腹に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 飛ばされた最後の一機はカシナトルドに貫かれている。パトリックはブレードを構えていただけだった。


「そんなにオレの撃墜数を増やしたいのか?」

「たまたま、いい位置にいただけです」

「戻るぜ」

「せいぜい頑張ってください」


 ルオーはスナイパーランチャーを振って送り出した。


   ◇      ◇      ◇


 デヴォー・ナチカは息を呑んでいた。


 策は弄したものの、眠そうな顔の青年を捨て駒にしたつもりはない。封じ込められるつもりの半包囲を抜けられたのは失策だった。


(スフォルカントの当たりを押し戻すなんて、思ったよりイオンスリーブを搭載されたゾフリータが多かった?)


 モスグリーンの機体は絶体絶命の距離に三機を抱えてしまう。ところが、ルオーは逃げる挙動一つ見せずに撃退してしまった。


(あのアームドスキンはなに? あのあしらい方、改良型ゾフリータより明らかにパワーがある)

 安心より驚きのほうが先に立ってしまう。


 両手で扱わなければならないような長砲身のスナイパーランチャーを片手で振りまわし、斬り込みを防いでみせたのである。異常とも思えるパワーだった。


 デヴォーは中継子機(リレーユニット)からの映像を映していたパネルをスワイプして外すと考え込んだ。


   ◇      ◇      ◇


(確実だな)

 ムザ・オーベントは確信する。


 突出した友軍部隊が敵精鋭に受け止められたのは痛い。しかし、完全ではなかった。一部が抜けて敵スナイパーに迫っているところまでは部隊通信で伝わってくる。凄まじい腕前のスナイパーだったがここまでである。


(単機ではどうあっても無理なのだ)

 自身がそうであるだけ予想に難い。

(スナイパー部隊の編成を具申したのは互いにフォローするため。そうでなければ前衛の防御の裏にいるしかない。狙撃の邪魔になる大量の味方の後ろにな。それでは我々の腕は活きないのだ)


 目覚ましい活躍は望めない。結果、スナイパーの地位向上も望めない。悩んでたどり着いた道は、スナイパー同士でフォローし合う編成の実現。それが叶って現状を作り出している。


(同じ壁に当たったところで果てたか。憐れだな)


 軍に属しない民間軍事会社(PMSC)の限界を見た気分だ。ムザが相手の立場だったら、似たような境遇のパイロットを集めてユニットを編成しただろうか。ただし、民間という質の限られたコミュニティの中で実現できたかは怪しい。


「作戦は成功だ。乱戦になる前に味方の援護を行う」

 スナイパー撃破の報はないが聞くのは戦闘後になろう。

「右翼に移動。敵を後背から切り崩す」

「うっし、こっからいつもの鳥撃ち大会だぜ」

「夢中になって、あたしたちにばっかフォローさせないでよ」

「わかってらあ」


 俄然張り切るツワラドにイルメアが茶々を入れている。編隊メンバーの疑念を払拭できただろう。彼らを翻弄するような強敵の出現は存在意義を脅かしてきたのだから。


「では、構え」

 位置取りしてから合図する。


 その瞬間、収束ビーム(スクイーズショット)がムザを襲う。動く暇さえ与えられないタイミングだった。


(味方の隙間を縫って? 馬鹿な!)


 遊軍の壁の向こうから飛んできたビームが彼のスナイパーランチャーをかすめていく。外側から炙られた砲身が赤熱して分解する。破壊は燃房(チャンバー)にまで至り誘爆した。

 それに飽き足らず、拡散した物理成分は右腕を這い上がり、ショルダーユニットまで損壊させて突き抜ける。武器を完璧に奪われてしまった。


「なんだとぉ!」

「ムザ!」


 狙撃されたリーダーの窮地を覚ったメンバーが撃ち方を中止する。その後は恐るべきスナイピングビームの襲来はない。しかし、ムザ隊の心胆寒からしめるには十分な一撃だ。


「援護はできない。司令部に通達する」

「どうするの?」

「一度退く。あ奴は健在だ」


 その後、アデ・トブラ軍は撤退を余儀なくされた。すでにダメージは想定を超えている。再編が不可欠である。


 ムザは歯噛みしてゾフリータを帰投させた。

次回『丁々発止で(1)』 「だから折り込むことができなかったと」

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― 新着の感想 ―
ルオーの普段のキャラからのギャップがあるせいか、普通に戦争して普通に敵機が爆散してるの不思議な感じだけど、考えてみたらここ数章が捜査官やらクロスファイトやらだったから戦争してなかっただけでゴート編時代…
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