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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
133/353

詰めたつもりが(4)

 アデ・トブラ艦隊はデブリの多かった宙域を抜けて進軍してくる。環境の優位性を捨てるつもりになったのだ。それもデヴォーの計算どおりなのでルオーは彼女の指示に従うまで。


(この戦争、どっちに転ぶかわからないなぁ。難局は目前の敵だけじゃないし)


 ここまでの奇襲作戦の情報が筒抜けになっているのが問題である。司令はそれさえも利用してスナイパー部隊の消耗を狙ったようだが、今後の戦局を考えれば解消しておかねばならないだろう。


「パット、アデ・トブラのアームドスキンは稼働中の工場からイオンスリーブが供給されているそうですから搭載機が混じってますよ。今までみたいにカシナトルドで圧倒できるなんて思わないほうがいいです」

 警告する。

「ゾフリータってやつだろ。そこまでか?」

「当面は積層イオンディスクの製造技術までは流出していなさそうだと聞いてますけど、拉致された技術者がいつまで黙っていられるか。限度もあるでしょう」

「そこまでやっちゃったら星間(G)保安(S)機構(O)が黙ってなくね?」

 人権問題だという。

「本人の意志でと主張するでしょうね。身柄が向こうにあるうちは証明もできません」

「確かに。出国させてない時点でグレーなところを誤魔化してんだもんな」

「友軍のスフォルカントはイオンディスクも搭載しているそうです。白兵戦の様子で見分けはつくと思います」


 現実に違いは明白だ。全駆動機がイオン方式になっているパトリックのカシナトルドは旧来のモーターとシリンダの構成の機体とは比べ物にならないパワーを発揮する。彼が最も違いを実感しているはずである。


(とはいえ、僕もルイン・ザがどんな構造をしているのか知らないんだけどね)


 不思議なことに彼の機体はカシナトルドにパワー負けしない。おそらくティムニがイオン駆動機を組み込んでいるのだろうと予想しているが詳しく訊いたことがない。知っているのは、重たいスナイパーランチャーでも容易に振りまわすパワーがある事実だけである。


「これまでの会戦では序盤から敵スナイパー部隊の切り崩しに遭って、立て直しもままならないで敗走しています」

 記録はチェックさせてもらった。

「ムザ・オーベントってやつの仕業だろ? それで、こんな領宙深くまで入り込まれてんだもんな」

「今回はたぶん、いきなり前には出てこないと思います」

「お前がきっちり脅し掛けてきたお陰でな」

 パトリックも傍で待機していたので知っている。

「それでも戦局次第で動いてくるでしょう。油断してはいけませんよ」

「お前と変わらん距離で狙ってくるかもな。でも、お前ほどピンポイントで当てては来ないだろ」

「そう願ってますけどね」


 奇襲作戦では、ルオーでも初撃を当てられない距離で狙ってきた。彼からも狙点だけしか見えなかったのである。つまり、狙撃射程だけなら変わらないと読んだ。

 そのうえでパトリックは彼と同じく正確性も測っていたのだろう。当てにはいけるが、ピンポイントで狙えるほどではないと予測している。


(デヴォー司令は仕留めても仕留めなくてもどっちでもいいって)

 曖昧にされている。

(戦局を一気に傾けるのは賢明ではないって思ってるんだなぁ。人質のこともあるし、なによりゼオルダイゼ同盟が動き出したら勝負にならないから)


 ルオーも必要な分だけのプレッシャーで済ませるべきと考えていた。


   ◇      ◇      ◇


 ムザは会戦に向けて部隊を全軍中央に置いている。接敵時に敵軍全体を狙えるようにだ。それはこれまでの戦法と変わらない。


(あ奴めもスナイパー。こちらの思惑など常識と捉えているだろう)

 位置は覚られていると思うべき。

(対して、こちらはあ奴の位置が掴めていない。情報といえば、これまで姿を現さなかったことから、新しく加わった民間軍事会社(PMSC)のパイロットだというくらいだ。どう出てくるかは読めんな)


 司令部は奇襲迎撃の失敗を受けて早急に対策を練り始めている。しかし、情報が足りないのはどうしようもない。さらにモンテゾルネ艦隊に援軍があったことを踏まえて、手をこまねいているわけにはいかないと進撃を決定したのである。


「迎撃失敗を早く取り戻さないと立場が悪くなってしまいます。もっと積極的に攻めるべきではないですか?」

 弱気なナッシュは必要以上に怯えている。

「焦るな。相手の思うつぼだ」

「そうよ。あれを普通の混戦の中でできるわけないんだから」

「もっとどっしり構えてろ。我々には実績がある」


 アームドスキン乗りでスナイパーというのは侮られがちである。あくまで後方支援しかできないと思われているからだ。それを今のポジションまで押し上げてきたのは、地道に積み上げた実績に他ならない。


「逆にいえば、スナイパーの弱点を最も知っているのは誰だ? 我々だろう?」

 問い掛けるとナッシュもようやく落ち着く。

「遠距離の撃ち合いだけではない。今回は白兵戦を得意とする前衛がいるのだ。あ奴が撃ってきて場所さえ知れれば、その瞬間が終わりのときだ。数に押し潰される運命にある」

「向こうも同じでは? 貴重な射手を守ってくるんではないかと」

「そこは兵力の違いがものをいう。一気に押し込むと司令部は決定している。心配するな」


(それしか対策がないのも事実ではあるがな)


 それでもムザは通用すると思っていた。

次回『詰めたつもりが(5)』 「こんなとこでお前を失う気なんてないぜ」

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