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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
131/351

詰めたつもりが(2)

(性懲りもなく)

 ムザ・オーベントは嘆息する。


 しかし、敵軍が無駄な試みをくり返してくれるほど彼らは戦果を挙げ勇名を高めていく。贅沢を言っても仕方ないこと。今の忙しさを戦後の豊かさと思って我慢するしかない。


「敵奇襲部隊確認」

「引きつける。八十秒待て」

 報告するナッシュに彼は答えた。


 アデ・トブラ艦隊は会戦後に発生した大量のデブリを盾にして駐留している。全ては彼らムザ隊が真価を発揮するためのお膳立てのようなもの。四人それぞれがデブリに身をひそめて迎撃する。


「たった八? 嘗めてる?」

「それだけ苦しいということだ」

 イルメアは鼻を鳴らしている。


 国軍開発のアームドスキン『ゾフリータ』はムザ隊仕様に電子戦兵装を強化されている。ターナ(ミスト)環境下の光学観測でも容易に数を見極められた。


「いつもどおり仕留めればいいってことよ。これが終わりゃ、艦隊が動く。モンテゾルネは一巻の終わり」

「あたしたちが花道を開けるってわけね」

「確実に行くぞ」


 諌めないのはムザもそう思っているからだ。だからこそ、ここでの失敗は避けねばならない。逃げる間もなく殲滅するために引き込んでいる。


「構え。ナッシュ、カウントダウンしろ」

「承知しました。十秒前から……」

 最後まで言い切ることができなかった。

「来ます! 直撃! スナイピングビーム!?」

「回避!」

「どうしてあんな方向から?」


 横合いからのビームは彼らと同じスナイパーランチャーより発せられたものと思われた。収束度が高く、細くて弾足が速い。一瞬にして到達する。彼がひそむデブリを削った。


「被害は?」

「なし! 射線分析完了!」

「よし。墜とせ」


 隊のメンバーに油断はない。ムザが教え込んだとおりの反応をして攻撃分析を終える。リンクで共有した射線分析によると敵は一機だけのはず。


「これで!」

「生意気なんだよ、ムザ隊相手に!」


 一斉にスナイピングビームが集中する。敵機がひそんでいると思われるデブリに直撃し、その裏のアームドスキンをも貫通するはずである。行動分析は撃墜したあとでいい。


「う……そ……」

「馬鹿な!」


 誰もが目を疑った。生まれたのは敵機撃墜の爆炎ではなく四つのプラズマボール。スナイピングビームの全てが敵からの狙撃によって阻止されていた。


「また来る!」

「躱せ!」


 連射能力に乏しいはずのスナイパーランチャーが彼らを狙って複数の光を吐いた。四機それぞれに二射ずつの光条が走る。今の場所で撃ち合いはできない。

 遮蔽物から離れ、ゾフリータを後退させる。収束ビーム(スクイーズショット)がデブリを貫通して最前までいた場所を焼いた。正確無比な狙撃に目を瞠る。


「冗談きつい!」

「動け。狙わせるな」


 切り裂かれたデブリを捨てて回避機動をしつつ射線分析に従って応射するも手応えはない。それどころか再び幾つかのプラズマボールが生まれる。


(やはり狙ってやっている。信じられんが)


 本来なら正体不明のスナイパーばかりにかまっていられないが、集中せねばメンバーが撃墜されかねない。回避重視の指示を送る。


「退く?」

 イルメアが呆けたような声を出した。


 狙撃も止み、奇襲部隊のはずだった八機のアームドスキンも距離を開けていく。煙に巻かれたムザ隊の四機だけがそこに残った。


「なんだったんでしょう?」

「わからん。ただ、我々が遊ばれただけだ」

 下唇を噛む。


 そんな顔を見せられないムザは通信用のカメラを切った。


   ◇      ◇      ◇


 面会を求められたルオー・ニックルはモンテゾルネ国軍艦隊旗艦クーデベルネに出向く。パトリックと肩を並べて司令官室に赴くと歓迎された。ついてきただけのクーファにもお茶を振る舞われる。


「ごめんなさいね、わざわざ」

「いえ、かまいません」


 艦隊司令はデヴォー・ナチカという名の女性。まだ三十代かと思わせるような美貌の婦人であった。階級と地位がそれを裏切っているが。

 今回の依頼(オーダー)が彼女からの直接のものだと考えれば会うのも変ではない。しかし、普通は面談を求めてくるような地位の相手ではないのが不可思議だった。


「一度会って話してみたくて」

 微笑みを絶やさず対面に座る。

「あなたほどの美人に求められれば一も二もなく駆けつけるさ」

「ありがたいこと。この顔くらいで奮起してくれるなら幾らでも拝んで」

「その麗しき唇の紡ぐ命令に従わない男なんていないはずだけどね」


 調子のいいパトリックの横で曖昧に応じる。自分の分のお菓子も隣の猫耳娘の前に滑らせると、特に感情もなく視線を向けた。


「僕たちのことをどちらで?」

「不思議? そうね。普通は従軍依頼は国家からあるものね」

 こちらの意図を読んでくる。

「実はクガ・パシミール司令と同席させていただいたことがあってね、そのときライジングサンのお話を耳にしたの」

「クガ司令と。そういう御縁でしたか」

「ええ、困ったときにとお教えいただいて、試しに依頼(オーダー)を出してみたら来てくれたってわけ。従軍依頼も請けるのね?」

 目顔で訊かれる。

「お断りしているのではないのです。ただ、あまり長い期間の拘束はなかなか難しいので避けているだけで」

「他の仕事に比べればハイリターンでも? それだけハイリスクなのは認める。避ける理由はそれでもない?」

「選り好みはしません。お得意様を優先したいので身体が空かないんです」


 くすくすと笑う司令官をルオーは読みかねていた。

次回『詰めたつもりが(3)』 「この戦力で君ならどう打ち勝つ?」

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