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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
世の中ままならない
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割り込まれて(1)

 軍学校も卒業シーズンを迎えている。学友たちは実に慌ただしい。浮足立ってるといってもいい。


(学科は大したことないけど、実技考査が運命の分かれ道だもんね)

 ルオーは傍観の姿勢。


 現状、マロ・バロッタに差し迫った危機はない。なので、できるだけ優秀な部隊に配属されたほうが出世は早い。しかし、万が一の事態を迎えると最前線に向かわされるリスクがある。

 ただの警備部隊とかに配属されると出世は遠くなる。だが命の危険も遠ざけられる。学生たちはそのあたりの兼ね合いをそれぞれの思惑とともに必死で計算しているのだ。


(まさか、こんなにのんびりしていられるとはね)


 後者に分類されていたはずの彼は今や落ち着き払っている。同部屋の学友には鼻を鳴らされた。なので、自身に向けられるはずだった祈りを彼に捧げると言って宥める。


(パイロットなんてハイリスク・ハイリターンの象徴みたいなもんだし、皆の焦る気持ちはしょうがないよねぇ)


 ルオーは落ち着きすぎて肝心なことを見落としているのに気づいていなかった。付きまとわれて困っていた過去をライジングサンの光が眩ましている。


「実技考査、辞退したんだってな?」

「わ、パトリック君、いたんですか?」

 背後からの呼び掛けに驚く。

「しますよ。だって、不要じゃないですか。みんなの邪魔したっていけませんし」

「お前を邪魔だと感じるほど見る目がある奴はいない。オレくらいだった」

「確かに」

 苦笑いする。

「そういえばパトリック君はどうなったんですか? 申し訳ないけど見落としてたみたいです」

「配属先は決まってる」

「さすがですね。優秀な部隊なんでしょう?」

「ああ、一番優秀な部隊(ユニット)になるはずだ。たぶん」


 この時点ではパトリックの自信をうかがわせる発言だと理解していた。しかし、それはルオーの大きな勘違いだったと知る。


「どうして?」


 軍学校を卒業して実家で数日を過ごして旅立ちを報告し祝福される。その後、ペグレマン宙港に到着したところでパトリックの待ち伏せを受ける。彼はリフトトレーラーにアームドスキンを乗せてやってきた。


「オレを雇え。いや、オレが共同経営者になってやる。必ず儲けさせてやるからな」

 強引に話を割り込ませてくる。

「いやいやいや、なんでです? 君は国軍で英雄になると言ってたじゃないですか」

「英雄になるにも色々と道はある。で、考え直した。この国なんて小さなこといわずに銀河規模で英雄になってやろう。お前がいればできなくもないはずだ」

「無茶言わないでください。僕は事業を起こしただけで、銀河レベルで活躍しようなんて考えてもいません」

 押し留めようとするも聞く耳持たない雰囲気に辟易する。

「どう思っていようとオレは確信している。お前こそがオレを最も輝かせると。軍への道をあきらめさせたんだ。責任を取れ」

「勝手言わないでください。なんの相談もなかったじゃないですか。僕の人生をなんだと思ってるんです?」

「名脇役だ、最高のな。早く自分の役割を自覚しろ」


 好き勝手言った挙げ句に大笑している。一番苦手としている成り行きにルオーはどうすればいいかわからなくなってしまった。


「勘弁してくださいよ。心機一転、のんびりいこうと思っていたのに」

「自身を活かさずしてなんの人生だ。余生を楽しむ老人みたいなこと言うな」

「実際、そんな気分だったんですけどね」


 残金を全てティムニに託して準備をしてもらっている。当面はろくに仕事はないだろうが構わないと考えていた。少しずつ少しずつ実績を重ねて事業を軌道に乗せていけばいい。


「船を手に入れたのは聞いた。つれていけ」

「僕の声、届いてます?」

 あいかわらず聞く耳持たない。


 宙港の搬入路で揉めているわけにもいかず割当ポートまで行くことにする。数え切れないほどのため息をつきつつパトリックの横に収まっていた。


「忙しかったのか? 眠そうな顔して」

「うんざりしてるんですよ。余計なお世話です」

 困惑しているように見えないか。

「その先、B91番ポートです」

「あのふ……、なんだと?」

「どうかしました?」


 ライジングサンを見上げて唖然としている。黄緑の船体は主星の光を浴びて燦然と輝いていた。


「生意気にも一括購入したというから、どれだけボロ船なのかと思っていれば」

 ひどい言い様である。

「色々と幸運が重なって入手したんです」

「お前の家族とお前の幸運を嘗めていたな。どんな裏技を使った?」

「内緒です」

 なんとなくティムニの思惑を語るべきでないと思った。

「これなら快適な生活ができそうだ。外見だけのハリボテでなければな」

「失礼ですよ」

『そーそー。この失礼な男は誰? パトリック・ゼーガン? いいとこの坊っちゃんがなんの用なの?』


 σ(シグマ)・ルーンから二頭身アバターが出現する。元学友は胡乱な目で見つめてきた。


「なんだ、それは?」

「僕の船の操船AIです。今後は彼女と事業を進めるので助力は結構です。気持ちだけ受け取っておきますので」


 ルオーはそう告げるが、パトリックの口元に浮かんだ悪巧みの笑みに顔をしかめた。

次回『割り込まれて(2)』 「はいはい、そうですよねぇ。君ってそういう人ですよねぇ」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 ……今回の主人公君は随分と巻き込まれ(絡まれ)体質 ……なんですかね?(ある意味宿命ですが……)
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