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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ
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光差す(7)

 ルオーの提案でチニルケール号は移動している。捜索宙域に合わせてその中心に位置するよう舵を取っていた。捜索班のアームドスキンパイロットに二次遭難の不安を与えないためだ。


「危険はないのかね」

「あります、広範囲のレーダーが使用できない状態で大きな船体を運用するのは大型デブリとの衝突を生む可能性が」

「私も推奨できませんな」

 ルオーの説明に船長が発言する。

「しかし、回避手段もあります。普段から使い慣れていないでしょうが、レーザースキャンを使う方法です。これならターナ(ミスト)の影響をほぼゼロにできます」

「そっか。民間操舵士(ステアラー)ってあんまりレーザースキャン使わないのか。軍艦艇なら当たり前に使ってるのにな」

「ライセンス取得時に技能実習もあるはずなんですが、滅多に使わないので忘れてしまっているんですよ」

 パトリックの指摘に一般常識で答える。


 ターナ(ミスト)に接することのほぼない民間の操舵士(ステアラー)は日頃電波レーダーに頼りすぎていてレーザースキャンのことを失念する。思い出してもらうだけでいい。定期的にスキャンを打てば危険を回避しやすくなる。


「このまま、ヒロイン役のロザリンド君を事故死などさせればコンテンツは成り立たなくなる。とても売り出せたりしない」

 ディルフレッド監督が決断する。

「今からリコレント政府に捜索応援を行っても間に合わないのは明白。我々は多少のリスクを負っても全力を尽くさねばならない。過ちを、ちょっとした騒動で終わらせるにはそれしかないのだ」

「監督のご意見です。必要な経費はプロジェクトのほうでお支払いするので捜索に協力願えませんか、船長?」

「わかりました。協力いたしますとも」


 そんなやり取りがあって捜索範囲を広げている。さらに、慣れた軍経験者を中心とした編隊を組んでより効率的な方法に切り替えたのに、一向に二人は見つかっていない。物理的なタイムリミットも近づいてきてしまっていた。


(どこにいるんだろう。もしかして僕は的外れな提案をしてしまったのか?)

 ルオーも不安を捨てきれない。


 彼だけはルイン・ザが電子戦性能が高いことを理由に単独行動をしている。かなり無茶な移動をして捜索範囲を広げているのに糸口さえ掴めないでいた。


(これは、移動しないよう我慢してくれてるなぁ。精神的には追い詰められてきているだろうに)

 推測できる。

(救出できないとなると二人の覚悟を無駄にしてしまう。それだけは駄目だ)


 それなのにデブリ帯は広く、目的の廃艦がどこにあるかが見当もつかない。絶望しそうになるが頭を振って払う。絶対に見つけるという強い意志が必要なのだ。


「ライジングサンは君たち二人の明日を暗闇に閉ざしたりしない」

 覚悟を口にする。


(どこだろう? 慣れないパイロットだとどんな行動をする?)

 手繰ろうとするが、彼自身軍学校経験が邪魔して想像できない。

(わからない。この方法論じゃ時間を無駄にするだけだ。なにか別の……)


 そのとき、ルイン・ザのセンサーになにかが引っ掛かった。自動検知にも表れない、小さな違和感がσ(シグマ)・ルーンを介して伝わってきたのだ。


(赤外線?)


 ルオーは微細な変動の検出に全力を振り向けた。


   ◇      ◇      ◇


 ロザリンドは拠点にした部屋の中で静かに身を浮かせている。彼女一人だ。


(ほんとは最後の一瞬まで足掻かなきゃいけないのに、死ぬのが怖すぎて目が曇ってしまってる。まともな判断さえできないなんて)

 思った以上に精神的に深刻な状態だった。

(これじゃ、クゥを犠牲にしてまで……)


 炭素フィルターのリミットは残り一時間を示している。もう気力を奮い立たせることもできないでいた。そうしているとドアが開いてクーファが顔を覗かせた。 


(大切な友人を犠牲にしても生きたいなんて少しでも考えた罰ね。だから助けが来ないんだわ)


 彼女のフィルターを奪い取ろうとするのをぎりぎりで思い留まっていた。そんな思いを抱いた自分があまりに情けない。それが余計に無気力にさせている。


「ロゼ、疲れたぁ?」

 無邪気に訊いてくる。

「ちょっとね。クゥは?」

「目標いっぱい書いてきたぁ」

「ああ、あれ」


 クーファは動きまわっては至るところに目印と主張するものを書いている。それは胸に付いているライジングサンのエンブレムと同じもの。水平線から朝日が登る様を簡略化したものだ。

 横一本線に、半分顔を覗かせた朝日から放射状に光が差すエンブレム。フィットスキンのバッテリーも限界があるのに、標準装備の簡易レーザートーチを使って装甲に刻みつけていた。


(あんな小さいの、遠くから見えるはずもないのに書いてまわって)

 無駄に思えたが止めもしなかった。

(この娘なりに一生懸命なんだろうけど的外れなのよね。可愛らしい足掻きだと思えば……)


 極限状態に真っ逆さまに落ちていきそうな自分を食い止めてくれていたのはクーファだ。どうにかまともな思考をしていられるのは孤独じゃないからだと思える。


(あのとき、馬鹿なことをしなくてほんとによかった)


 ロザリンドは猫耳娘を抱きしめた。

次回『光差す(8)』 「ロゼも朝日の光が差すところにきっと連れてってくれるぅ」

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