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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ
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光差す(2)

 アームドスキンアクションの撮り直し分はそれほど難しくない。なにより、攻撃開始や撤退などの一部分に限られるし、そこをワンカットにすれば整合性は取りやすい。


「すまんが、次のシーンだけは撤退までの流れがワンシーンになってるから通しで頼む。できるだけコクピット撮影のやり直ししないで済むよう動きをなぞってくれ」

 監督の指示が飛ぶ。

「わりと大変だけど、わかんなくもない。ルオー、いけるだろ?」

「やりますよ。そのために憶えてきたんですから」

「んじゃ、プロ魂見せてやろうぜ」


 パトリックを起点にアクションが始まる。ルオーは引っ張られるように流れをなぞる。不安だったが、どうにか一発勝負で決まりそうだった。


『ターナ(ミスト)を検知しました』

 システムアナウンスが流れる。

「嘘でしょう? なんでです?」

「マジかよ」

「いえ、冗談ではないようです」


 即座に確認する。間違いなく周囲にターナ(ミスト)が放出されていた。近くのパトリックのルーメットとはかろうじて無線が繋がるが、他の機体との交信は途切れ途切れになっている。通常出力では繋がらない。


(チニルケール号とのリンクも切れてる。向こうはパニックになってるな。なにが起こったのかわからないだろうし)

 彼は見回す。


 原因になるものは一つしか見当たらない。無人機カメラデバイスである。見慣れた形状ではないが、どうやら軍需製品だったらしい。


「あのカメラ、元は中継子機(リレーユニット)だったみたいですね?」

「ターナ(ミスト)積んでたのか。壊れて放出したって?」

「壊れてかどうかはわかりません。物が物だけに何重にもセーフティが掛かっている部分です。操作ミスの可能性のほうが高い」


 ターナ(ミスト)はあまりに効果の強い資材である。なので、少々壊れただけでは漏出しない構造になっているはず。それが周囲に大々的に効果を発揮するほどの量となると故障の確率はかなり低い。


「とりあえず、アームドスキンをまとめて戻りましょう。慣れない人が多いのでパニックになりかねません」

 注意喚起する。

「そうだな。おーい、落ち着け! 大丈夫だ。無線をハイパワーモードにしろ。近いとこは繋がるから」

「パトリック、これは? ターナ(ミスト)って」

「なんか事故っぽい。どうせ撮影もままならんから一回戻ろうぜ。上に判断してもらおう」

 互いに繋がると皆落ち着いた様子になる。

「戻るって、無線通じないから船からのナビないぞ。レーザーリンクも切れてる」

「心配しなくたって機体のジャイロが方向も距離も記録してる。逆向きにたどれば見える範囲には戻れるから心配すんな」

「おー、ほんとだ。さすが実戦経験者は違うな」


(取りまとめはパットに任せよう。僕はあれをどうにかするかぁ)

 カメラデバイスに視線を飛ばす。


 電波による制御が切れて浮遊している状態。ルオーはレーザーリンクを構築すると、そこから全機へとネットワークを広げていった。


「いきなり感度いいぞ」

「カメラデバイスをハブにしてリンクしました。あまり離れなければ切れることはないはずです。このまま一緒に戻りましょう」

 構築したリンクで呼び掛ける。

「助かった。頼れるのは、やっぱりプロだな」

「あんたらだってパイロットとしてはプロじゃん」

「違いない。でも、知らないことが多すぎるってな。情けない」


 ルオーはパトリックと皆を先導してチニルケール号へと帰還の進路を取った。


   ◇      ◇      ◇


 アームドスキンの一団が帰還すると歓声とともに迎えられる。船倉では予想だにしていなかった事態に半分パニックに陥っていたようだ。救出の手立てもないまま喧々諤々としていたところへ彼らが戻ってきたので歓迎を受けたらしい。


船倉(した)でこれほどとなるとメインスタッフ(うえ)はマズいことになってるかもねぇ)

 ルオーの懸念は的中する。


 操舵室(ステアハウス)に集まったスタッフが驚愕の面持ちでパイロットたちを迎える。この状況でどうやって戻ったのか信じられないようだ。


「よく……、よくぞ戻ってくれた……」

 青ざめた面持ちでディルフレッド監督が言う。

「ちょっち厳しい具合だったけど、このくらいならどうにかなるって。安心してちょ」

「パトリック君、助かったよ。さすが実戦経験者は違うね」

「任せてー」

 熱烈な握手を受けている。

「原因はわかっていますか? 事故でしょうか、手違いでしょうか?」

「それがな……」

「すみません、人為的なものなの」

 ヘルデ助監督が申告する。


 アシスタントのニーニット・クレマシー。これまで陰で支えてきたメインスタッフの一人が、ターナ(ミスト)の効果を皆が実感すれば今後の撮影が上手くいくと思ってカメラデバイスから放出したという。


「やっちまったな」

 パトリックは笑い飛ばす。

「ずいぶんと濃い濃度で検出したのはその所為でしたか」

「戦闘濃度の設定せずに全部一遍にばら撒いちゃったんだろ。そうすりゃ、あんな状態になる」

「はい……」

 ずいぶんと絞られたあとらしく、ひどく消沈している。

「まあ、いいとしましょう。皆が無事だったのですから」

「そだな。こいつが収まるには時間掛かっちゃうけど」


 場所が場所だけに重力に捕まって流れていくこともない。ただ、拡散するままに任せる状態である。


「クゥはどこです?」

 不在に気づく。

「ロゼもいないな」

「誰か知ってるか?」


 一同が安堵したのも束の間、慌ただしくやってきた女性パイロット。真っ青な彼女は口をパクパクさせている。


「どうした?」

「ど、どうしよう。置いてきちゃった」


 ルオーはその一言に嫌な予感がした。

次回『光差す(3)』 「おいおい、ちょっと待ってくれ。そいつはマズいな」

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