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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ
120/350

難関越えて(6)

 アームドスキン班の撮影は続き、並行して編集された映像合わせのコクピット撮影も進んでいく。スタントパイロットの変更で苦労したニコもパトリックのフォローを受け、持ち前の経験も活かしてどうにか仕上げていく。


(なんだかすごくハイクオリティのものができてる気がする。私が本格的な現場を知らない所為?)


 ロザリンドがこれまで出演したムービーに戦争もの、ましてや宇宙を舞台にしたものは数少ない。ほとんどすぐ死ぬ役や端役ばかりで本物は初めてだった。


「少しはいいものに仕上がってるのかしら?」

「なに言ってる。今作は相当気合い入れた出来になってるよ」

 ニコが優しく肩に手を置いてくる。


 今は夕食後のミーティング。粗編集ながら、今日まで撮影の済んだ部分を皆で鑑賞して意見を出し合う場だった。メインスタッフや演者とは別に、珍しくルオーやパトリックも呼ばれている。


「君の熱意が皆に伝染してかなりこだわった映像になってるはずだ」

 親指を立てて見せてくる。

「それならいいんですけど。変に足を引っ張ったんじゃないかって」

「もちろん苦労はしてる。でも、その分だけクオリティは上がる。そういうのって観る人間に伝わるものだよ」

「期待しちゃいますよ?」

 舌を出して言うと彼は「していいぞ」と太鼓判を押してくれた。


(なんか足りない気がしてる)

 ロザリンドは得も言われぬ不安を抱えている。

(私、リズリー・ダコットをやれてる? できてるつもりだけど本当にそう? 彼女はアームドスキンパイロットで、でも愛情深い人で……)


 もう一つなにかが欠けている気がしてならない。それがなんなのかわからなくて、もどかしい思いを引きずっている。


「じゃあ、流すわね」

 ヘルデ助監督が手を挙げて大型パネルを表示させる。

宇宙(うえ)で撮った戦闘シーンメインの編集版。カットインとかもそれっぽくしてあるから見応えあるわよ」

「今後微調整も行う。僕やヘルデ君の視点ばかりでは主観的になってしまう。みんなの忌憚のない意見がほしい」

「わかりました」


 参加している撮影オペレータたちも真剣に映像に見入っている。表情からして自信のほどが窺えた。ところが、彼女は一人だけ微妙な面持ちをしている人物を見つけてしまう。


「オレ、格好良くない? ね? ね?」

「君自身は映ってませんけどね。この中ではエディです」

 その人物が答えている。

「そう言うなよ、ルオー。気合入ったアクションだろ?」

「今回かぎりですよ。別の依頼(オーダー)に変な振り付けないでくださいね」

「いや、オレは気づいた。依頼主(ユーザー)に魅せる演技も大事だと」

 眠そうな青年は苦い顔をしている。

「んで、失敗するのがパッキーだよぉ?」

「するか。それとパッキー言うな」

「ねえ、ルオー。さっきの妙な反応はなにに引っ掛かったの?」


 ロザリンドが声を掛けるとルオーはさらに苦い顔になる。気づかれたくはなかったという感じだった。


「いいから言って。ここはそういう場……、なんだと思う」

 確実な自信はない。

「気になった点があるのかね? 言ってくれたまえ」

「そうそう、なんでもな。僕の動きにキレが足りないのとか以外だとありがたいが」

「そんなに気にしてるの、ニコ?」


 ヘルデにツッコまれて笑いを取る主演俳優。厳しい目が青年に向かないよう配慮している。背を押されるようにルオーは口を開いた。


「なんていうか、綺麗すぎるんです」

 彼が指摘したタイムの映像がもう一度流れる。

「綺麗すぎるとはどういうことだね?」

「ここで撤退合図が出た設定です。台詞も操縦もマッチしてるし問題ありません」

「そうよね。ビビったわ」

 リズリーの機体と彼女のカットインが入っているシーンだけにおののいていた。

「ここに限らないんですが、皆さん、一つ忘れていることがあるんです」

「忘れてる?」

「そこは戦場で、当たり前にターナ(ミスト)が使われているってことを」


 皆が目を丸くする。誰も考えてもいなかった指摘だったからだ。それとなく頭の隅には知識があっても、それがどう作用するか理解しているとは言いがたい。


「普通の人は経験ないですよね。ここで経験あるとしたら僕たちと軍経験のあるスタントパイロットの方々くらいでしょうか」

 前置きされる。

「電波撹乱がされている状態というのは意外と難しいんです。無線は近距離でしか通じません。なので、撤退が決まってもこの映像みたいに綺麗には揃わないんです」

「言われれば確かに」

「なので、ジャスチャーでも周知したりします。撤退ならビームランチャーやブレードを肩の上でクルクル回したり、攻撃なら前に振り下ろす動作をしたり。それに気づいた順で動き出します」

 映像のように一斉に反転したりできないようだ。

「おお……、当たり前だといえば当たり前。しかし、経験がないとわからないものだな」

「もちろん、映像として見栄えが良くないので業界として意図的に無視されてきたのかもしれません。些細なことなんです」

「…………」


 一同絶句する。しかし、徐々に染み渡るように誰もが顔を見合わせた。


「無線交信にノイズが入るような効果は入れるつもりでした。ですが、アームドスキンの動きにまで波及するとは思ってもいなくて」

「要検討だな。素晴らしい意見をありがとう、ルオー君」


 指導役が褒められたのが自身のことのように嬉しかったロザリンドだった。

次回『光差す(1)』 「下見、したいのよね」

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