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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ
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難関越えて(5)

 ルオーは敵部隊集団先頭の主人公が乗るルーメットを狙撃する。宇宙を走った一撃は見事に直撃した。演習出力なので貫いたりはしないが、アームドスキンは反動でロールし始める。


(え、来るとわかってて避けない?)

 そこで固まってしまった。


 当然、撮影は止まる。アドリブで取り戻せるような状況ではない。


「おい、死んでどうする、エディ・ニコルソン!」


 主人公の役名でスタントに監督から指摘が入る。背景でスタッフの笑い声がもれ聞こえてきた。場を和ませるツッコミである。


「ですが、監督。あいつ、スルッと出てきていきなり撃つんすよ? なんで、モーション取らないんすか」

 まるでルオーが悪いように言われた。

「え、この世界では『今から撃つぞ』って宣言しないと撃っちゃ駄目なんです?」

「そこまで言わないけど、ビームランチャーを構えるところから映るようにするだろ、普通」

「挙動を覚られたら当たるものも当たりません。そうしろっておっしゃるならそうしますけど」


 このあたりがメインどころの役者のスタントパイロットにパトリックやルオーが選ばれなかった理由である。相方は多少見栄えを気にするところはあるが、ルオーにはそれが全くない。当たり前だが狙撃のモーションを見咎められては意味がない。


「監督、私はルオーの言ってるほうが正しいと思います。今から撃つぞってモーションして撃つパイロットなんていないんじゃないですか?」

 ロザリンドが意見する声が聞こえる。

「ああ、僕も賛成かな。『世界、果てるとも』は子ども向けコンテンツじゃなくて大人向けリアル志向だからわざとらしいアクションは必要ないと思う」

「ニコが言うのも一理あるな。次は避けろよ、エディ」

「マジっすか?」


 見栄え重視のスタントパイロットには理解しがたいディレクションらしい。明らかに困惑する様子が見て取れる。


(大丈夫かなぁ)

 ルオーは不安で仕方ない。


 やはりリテイクのカットでも、初撃は躱したものの接近してからの二撃目はまた直撃してしまった。再び撮影は止まってしまう。


「見てなかったんです?」

「だから、しっかりビームランチャーを向けてこいよ!」

 クレームが入るのも二度目。

「向けたら避けるじゃないですか」

「避けたいんだよ」

「牽制射撃じゃないかぎり、避けさせるために撃ったりしませんけど」

 どうにも噛み合わない。


(僕は僕でレベルを下げる努力をしないといけないらしい。だから、こんな仕事嫌だったんだけどなぁ)

 パトリックへの恨み節がもれる。


 案の定、3テイクめも当たってはいけないビームが当たる。外そうかとも思ったが、相手が全く動いてないのに外れるのはあまりにわざとらしい。


「当たらないでくださいよ」

「当てるなよ!」

 さすがに気にして噛み付いてくる。


 序盤で主人公機が狙撃してくる敵軍の歴戦のパイロットを颯爽と撃破するシーンである。主人公エディの強さを表すツカミのシーンだけに質は下げたくないという。

 監督サイドはまだ撮影序盤なので笑い飛ばす余裕がある。ロザリンドとクーファは完全にツボに入っているようで笑い声が聞こえるまま。しかし、この調子では撮影は進むまい。


「仕方ないな。オレの出番か」

 パトリックが名乗り出る。

「そうだ、パトリックがいたな。君ならルオーの狙撃もきっちり躱せるんだろう?」

「任せろ、ニコ。これだけの距離があればね」

「監督、激しい戦闘シーンに関して、僕のスタントは彼に任せたほうがいいかもしれません。ここ数日の練習で彼の操縦も演技向きになってますから」

 主役からの進言がある。

「試してみるか。パトリック君、動きは入ってるかね?」

「もちろんちゃーん。このくらいならアドリブでどうにでもしちゃうよん」

「では、頼もう。主人公機、乗り換えだ」


(助かった。このままじゃ終わらない気がして)

 ルオーは安堵する。

(ん、失敗したかなぁ? もし、上手くいかないで外されてたら指導だけで済んだかも。契約料金(フィー)下げられても、そっちのほうが楽だった?)


 苦手分野についサボり根性が首をもたげてしまう。目立つのを極力避けて生きてきただけに、急にやれと言われてもできるものではない。苦痛に感じてしまう。


「本気でいいですか、パット?」

「いや、本気はやめろ」


 そうは言うが、彼の動きを見慣れている相方。初撃を絶妙なタイミングで躱し、一団を率いて迫ってくる。ビームを縫い、近づいてからの一射も外してみせた。


「このエディ・ニコルソンの敵ではない!」

 録音されているでもないのに台詞まで混じえてくる。


 僚機を墜とされて劣勢に陥ったルオーは苦しみながらも粘る。後退しながらの正確な狙撃もパトリックは脇抜きで避けてみせた。

 そこでヒートゲージがいっぱいになった設定なのでトリガーを落とすのをやめる。ブレードの連撃を一つ二つとギリギリで躱してみせた。最後は反射的にかざしたビームランチャーを斬り裂かれ、胴体を貫かれた姿勢で終了。


「カット! OK!」

 スタッフサイドから感嘆の声がもれている。

「どんなもんさ」

「本気すぎるわ! 今のを僕にやれってのか、パトリック?」

「あれ?」

「スタントの変更を撤回したくなったぞ?」


 ニコのツッコミに空気が和むのを感じてルオーも安心した。

次回『難関越えて(6)』 「なんていうか、綺麗すぎるんです」

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