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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ
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こだわり捨てず(5)

「ダレッド、遅れない。こんなとこで迷子になったらすぐに特進ものよ」

「嫌ですよ、リズリー。ぼくだってそんな昇進の仕方。親を悲しませたくない」


 ダレッド・エイパーは共演する若手俳優クルス・ノーキッドの役名。この場面ではロザリンド扮するリズリーの隊の新人として参加している設定。


「遅れてるじゃない、私のほうが。こんなの話にならない」

 確認するとAIプランの動作に彼女のフィットバー操作が遅れてしまっている。

「カットイン加工したら丸わかり。恥ずかしいったら」

「今日の撮影はお試しなんだからいいんじゃない? 本番の飛行シーンの撮影はまだなんだし」

「頭に入れてるはずのプラン映像にも合わせられないんじゃ、実際映像に合わせるのに苦労するのはやってみるまでもないわね」


 自分に情けなくなる。申し出てまでお試し撮影をしてもらったのに、この体たらくでは困る。


「慣れさ。今に合わせられるようになる。テイクを重ねてタイミングを身体に憶え込ませることから」

 ニコは気楽に言う。

「先が思いやられちゃう」

「誰だって最初から上手くはできない。僕も経験があるから、こうしてのんびり構えられていられるだけだ」

「すぐにでもできるようになりたいの。ルオーにもっと厳しくしてもらわないと」

 指導役はめっきり偏っている。

「彼は優しいからな。パトリック君ならビシビシ言ってくるぞ」

「男性陣にだけ。私のときは甘々なんだから」

「あれは性分だな」


 優しく教えてくれるパトリックも悪くないのだが、なにより指導中に別の話を振ってくるのが気に入らないのだ。「今夜、一緒に食事でも」とか「今日も綺麗だね」とか言われても、その時間の分もっと有意義な指導をしてほしいと思ってしまう。


(その点、ルオーは淡々としてるから無駄がない)

 正確には邪念がない感じ。

(ついでにクゥも付いてくるから休憩もいい具合に息抜きできるし)


 その二人は今、エキストラパイロットとしての仕事をしている。様々なテストの結果、パイロットの中からニコやクルス、ロザリンドのスタントが選ばれるが別の人物。パトリックやルオーは腕はいいものの魅せる動きができない。それはスタントパイロットに一日の長があった。


「きっちり合わせてきますね。ろくに息を合わせる時間もなかったでしょうに」

 撮影中のライブ映像を見ながらヘルデ助監督が感嘆する。

「場合によっては部隊行動とかもするのかもしれんな。本格的な操縦技術となると彼らに勝る者はいないんだろう」

「助かりますね。要所要所の難しいアクションは二人に割り当てるようにしましょう」

「状況に応じてルーメットとレイ・ロアンが交互になったりするかもしれんが大丈夫かね?」


 ディルフレッド監督は機種ごとに任せるパイロットを決めるスタイルらしい。そのほうが慣れもあってスムーズに撮影が進むという経験から来ているようだ。


「大丈夫でしょう。ルオーもルーメットに乗るのは今日が初めてのはずですよ」

 ヘルデはスケジュール確認をしている。

「すごいな。これで見れる演技ができるようになったら専属にスカウトしたいくらいだ」

「分野が違えどプロフェッショナルなのですわ。撮影を重ねればいい動きをしてくれそうです」

「ふむ。安い買い物だったかもしれんな」


 監督としてはそれほど乗り気ではなかったのかもしれない。しかし、スポンサーのナクラマー社から戦闘シーンも本格的なものにしたいという要望があって監修という形で二人を呼んだのだという。製品をより映える作品にしたかったのだろう。


(期待感が半端じゃない。私、負けてる?)

 明暗に危機感が募る。


 確かに一糸乱れぬ飛行をしている。こちらも開けた空間でのお試し撮影をしているのだが、普段から訓練をしている同士のような一体感があった。ヘルデなどはそのまま使えるのではと言い出すほどである。


「うー……」

「ロゼ、顔怖ぃ」

 いつの間にか映像パネルを睨みつけていた。

「っと、いけない。落ち着け、ロゼ。焦ったっていい結果なんて出ない。平常心」

「チョコ食べるぅ?」

「あーん」


 指ごと引き寄せると猫耳少女はくすぐったそうにしている。今日はボーダーのウサ耳装備のクーファと少しじゃれ合っていたら落ち着いてきた。


「もう一回……、ううん、その前に復習しよ」

 AIプランを観直す。

「ねえ、クゥ。ルオーやパトリックって普段どんな練習してる? やっぱり実機に乗って飛び回るのが多いのかしら?」

「そんなことなぃ。一日一回は走ってるだけぇ」

「体力トレーニングがメイン?」

 身体が資本ということか。

「筋力維持って言ってたぁ。クゥは太らないようにマシンで走ってるけどぉ」

「そこは気になるのね。邪魔してない?」

「邪魔じゃなくてぇ、お手本?」


 眺めてるだけに飽き足らずマシンを横取りする猫耳娘の姿が想像できる。ルオーならば笑って譲るだろう。それを彼女はお手本と主張しているのだ。


(特別に訓練してないとしたらなに? アームドスキンって一度乗れるようになったら身体が憶えちゃう類のそれ? だったら、本当にライセンス狙うくらいの気構えがいるかもしれない)


 ロザリンドはクーファの耳を引っ張って悪戯しながら模索していた。

次回『難関越えて(1)』 「いくら練習しても意味ないんだったらショック」

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