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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ
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顔ぶれ揃い(5)

 依頼(オーダー)していた民間軍事会社(PMSC)の到着は『世界、果てるとも』のメインスタッフがミーティングをしていた部屋にも届いている。彼らがやってきたら、本格的な契約条件の詰めと今後の細かなスケジュールが決定される。


(練習期間がしっかりほしい。監督サイドはそれほど考えてないみたいだけど、プロフェッショナルが観たら笑い草になるような演技をしたくない)

 ロザリンド・メーガスンが思っているのはコクピット内での動きのこと。


 もちろん専業(プロ)パイロットの操縦に劣らない動きなど急にはできまい。だが、せめて矛盾のない程度の演技はしたいと彼女は思っている。それにどれくらいの時間が費やせるのか議論していたところだ。


「無論、撮影シミュレータは君たち二人で好きに使ってくれていい。主演二人には専用のものを置いている」

 四つあるうち二つはニコ・ハーヴェイと彼女専用とされている。

「僕はそれなりに慣れてるから軽く練習するだけでも構わないけどね。まあ、早めに動きのAIプランを出してくれればの話だけど」

「私、AIプランが上がってきても、それを一つひとつの動作に分解してそれぞれの操作を身体に憶えさせるのにかなりの時間が掛かると思うの。練習で精度の高い動作ができないと演技しながらできるわけないから」

「理解できるが、そのレベルに達するにはそれこそ本当にアームドスキンに乗れるくらいだと思うがね。あとで辻褄合わせの補正はできるから、それらしいレベルに仕上げてくれればいい」

 ディルフリッド・オーグマン監督は穏やかに制してくる。

「でも、習うために民間軍事会社(PMSC)を呼び寄せてくれたんですよね?」

「ある程度、問題のないレベルにしてもらうために過ぎないわ。そのために事前に本物のパイロット用σ(シグマ)・ルーンを渡して学習させているでしょう? おそらく、感応操作補正の半分くらいは満たされているはずなの」

「そうなんでしょうか。少し触らせてもらった感触では丸っきりだったんですけど」

 ヘルデ・サイアン助監督が取りなしてくる。


 σ・ルーンはパイロット用の感応操作装具(ギア)。思考スイッチでの操作まで身体の動きに出るわけではないので本来なら模造品で問題ない。実物を準備したのはコクピットのフィットバー、主に腕の操作や武装の操作を行う操縦桿のアクションに補正が掛かるためである。

 つまり、ストーリーボードを動作にまで噛み砕いてあるAIプラン映像の動作をさせるのに、どれだけの腕の動きが必要なのかチューニングするためだけなのだ。そのへんの感覚をロザリンドは掴みかねている。


(ハイパーネットに転がってるアームドスキン操縦ノウハウの動画を漁ってさらっただけの状態だと、シミュレータイメージ機体でさえまともに動いてくれなかった)

 出港してから小道具に頼み込んで乗らせてもらったのである。

(シミュレータでAIプランと同じ動きをさせられるようにならないと話にならない。それも国軍パイロットっていう設定のリズリーが当たり前にできるみたいに自然に)


 リズリー・ダコットはロザリンドが演じる役名である。国軍パイロットであるリズリーならろくに意識しなくてもできる操縦動作が今の彼女にはできない。それでは話にならないのだ。


「ちゃんと指導を受ければできるようになる」

 不安を理解してくれない監督は安請け合いする。

「ニコのスケジュールに迷惑かけたくないんで撮影までに完璧に仕上げたいんです」

「そこまで気にしなくていいさ。多少の柔軟性はある」

「だって、あなた、このロケ中にまでリモート出演のコンテンツがあるくらい忙しいじゃない」

 チニルケール号の船内にはニコ用のリモート撮影ブースまで備えられている。

「エージェントが管理してくれてるから」

「問題出るのはロケの期日のほう。出向くはずのイベントなんかに急遽変更でリモート出演なんてファンをがっかりさせちゃう」

「それくらい、この『世界、果てるまで』に入れ込んで撮影してるんだって、いい宣伝文句になるさ」


 気楽に応じてくれるのはニコが業界で相応の地位を築いているから。そうでなければロザリンドみたいにガツガツしている。


「私みたいに作品の稼働でスケジュール埋まってるのありがたくて仕方ないポジションじゃないからそう言えるの」

 拗ねたような口調になってしまう。

「そんな不満が口にできるのは今だけ。そのうち、もっと休ませてくれって悲鳴をあげる羽目になるから」

「そう願いたいもの。そのために演技を納得できるまで仕上げたいのに」

「君の意気込みは買っているよ。まずは彼らに相談しなさい」

 ドアがスライドして三人の人物が入ってくる。

「え、他の演者?」

「そう言ってくれると嬉しいね、ロザリンド。オレはライジングサンのパトリック・ゼーガン。リクエストに応じてやってきたぜ」

「あなたがそうなの?」


 驚くほどの美形だった。整った顔立ちに微笑みが様になっている。身体も引き締まっていて逞しい。浅黒い肌もミステリアスな印象を抱かせていた。


民間軍事会社(PMSC)『ライジングサン』です。この度はご依頼ありがとうございます。詳しいお話伺ってもよろしいでしょうか?」

「あれ、もらってもいぃ? クゥ、お腹へったぁ」

「待ってくださいね。お願いしてみましょう」


 もう一人の人物の登場にロザリンドは意外な印象を抱いた。

次回『顔ぶれ揃い(6)』 「優しく懇切丁寧な指導が売りだから安心してくれて構わない」

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