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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ
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顔ぶれ揃い(4)

 貨物船の基本構造はあまり変わらない。下部が貨物を積む船倉であり、上部が乗員のスペースになる。これは昇降の利便性よりも墜落時の危険性を重視した構造であるため、どこでも似通った設計になっていた。


「ずらっと並べてありますね」

 船底(ボトム)直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)を接続したので、ルオーたちが通り抜けるとそこは船倉である。

「ま、こうだよな。撮影用のアームドスキンなんて、ろくに整備もされない状態で運用されるんだろうし」

「基本、動けばいいくらいの感覚でしょうから」

「たぶん、問題起きたら修理して使えばいいと思ってんだぜ」


 船倉にあるアームドスキンは全て壁面の骨材に固定されているだけである。戦闘艦艇での運用のように基台に乗せられているわけではない。


「それでも、マシなほうなんじゃね?」

 パトリックが首を巡らせる。

「ええ、悪くないと思います」

「こっちの列は全部ナクラマーのルーメットだもんな」

「最新ではありませんが比較的新しい世代です。ああ、ナクラマー社の協賛が入ってますから、中古のレンタル機でもまわしてもらったんでしょう」


 制作発表時の協賛にアームドスキンメーカーの名前も連なっていた。戦争ものに定評がある監督だけあってメーカーも着眼している様子だ。


「でもな、あっちの列はドルステンのレイ・アランじゃん」

 別メーカーの機体まで揃えられてある。

「するとシナリオ上、あちらが負け陣営の使う機体なのかもしれません」

「露骨だな」

「まあ、ちゃんと勝ち負けまで描くような作品なのかもわかりませんけど」


 戦争の一コマを切り取るだけなら勝敗まで考える必要はない。その後も続くという描き方をすればいいだけだ。


「国の違いを差別化するために別メーカーのアームドスキンをレンタルしてきたんだろうな。レイ・アランは二世代前の機体だから」

 そのあたりはパトリックのほうが詳しい。

「二世代前となるとアームドスキン開発初期くらいですよね?」

「おう。がわは繕ってあるけど、中身はまだ試行錯誤の産物だった頃のマシンだもんな。動きはぎこちない感じだった」

「僕たちが親しんでた世代の機体じゃないですか」


 軍学校時代の二人が乗っていたのが一世代前の国軍機である。今では二世代前になっているので技術的には馴染みがある。


「カシナトルドに慣れちった今のオレには乗れた代物じゃないだろうな」

 相方は苦笑いしている。

「乗るんですよ。そのために古いプロトコルデータと昔のバックアップしてあったσ(シグマ)・ルーンデータを引っ張り出してきたんでしょう?」

「今のデータに上書きなんてできないもんな。そんなの、背筋が凍る思いだぜ」

「ティムニに角が生えますよ」


 σ・ルーンの学習データは乗るアームドスキンによっても進化度合いが変わってくる。なので、今のデータを使って古い機体に乗ったりすれば劣化の方向に働いてしまうのだ。磨いてきたデータを壊すような行為はパイロットとして耐えられるものではない。


「しゃーない。カシナトルドの魅力を再確認するくらいのつもりで乗るか」

 気の持ちようだと説く。

「そもそも、僕たちの割り当てまであるんでしょうか? 見た感じ少ない、……二十機ずつしかありませんね」

「使いまわしすんじゃね? いくら本格的に撮りたいっても百機も二百機もレンタルしてらんないじゃん」

「確かにそうですけど、どうやって見せかけるつもりなんでしょうね? 想像もつきません」


 国軍という設定で使用するのだから機種を揃えるのは理屈に合っている。しかし、全部同じ機体をそのまま登場させればリアリティの欠片もなくなると思ってしまう。


「あのへんにいる小道具担当がどうにかすんだろ。オレも内実の話までは知らん」

「でしょうね」

「あの人たち、暇なのぉ?」


 クーファが不思議そうに眺めているのが撮影の機材を担当するスタッフ陣だろう。フィットスキンの上に汚れの目立つオーバーオールを羽織っていた。その向こうでフィットスキンだけの面々がエキストラパイロットなのかと予想する。


「撮影が始まるまでは仕事がないみたいですね。出番まで退屈しているのでしょう」

「だったら、クゥの下僕として使ってあげてもいぃ?」

「やめてあげてください。あの人たちなりに大変なんですよ」


 アームドスキンのライセンスまで持っているのに、国軍に所属していなければ傭兵(ソルジャーズ)でもない。どこかの民間軍事会社(PMSC)に雇われているのでもない。

 スタント要員としてコンテンツ産業に正式採用されているのかもしれないが操縦技術としては知れていよう。実戦を知らないのは自ずと腕に表れてしまう。


「なぁ、お前らが例の民間軍事会社(PMSC)の?」

 横を通り過ぎるときに話し掛けてくる。

「そうだぜ。よろしくな」

「今から顔合わせか。いいなー、監督や役者陣とも話せるんだもんな。俺たちなんて全部通信パネルで演技指導されるだけだしよ」

「僕たちも契約を済ませたら似たような立場かもしれません。お気になさらず」


 どうやら、メインスタッフと船倉にいるスタッフ陣では隔絶感があるらしい。それが普通なのかは芸能に詳しくない彼にはわからなかった。


(業界なりに色々あるんでしょうね)


 振る舞いは慎重にすべきかもしれないとルオーは思った。

次回『顔ぶれ揃い(5)』 「そのために演技を納得できるまで仕上げたいのに」

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