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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ
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顔ぶれ揃い(3)

 ルオーたちの戦闘艇ライジングサンが通常航行で惑星リコレントの領宙内のランデブーポイントで待っていると大型貨物客船がやってくる。民間船舶としては500m級とかなりなサイズ。貨物船を兼ねていると考えればそこまで珍しくはないが。


「あんなもん準備してやってくるとは豪勢だな」

「ディルフリッド・オーグマン監督の作品ですからね。それくらいには有名な方なんでしょう?」

 娯楽映像作品には触れてきていない青年には有名監督という程度の知識しかない。

「ああ、巨匠だ。特に戦争をモチーフとしたものは評価高いな。お前、ドキュメンタリばっかで創作はアニメくらいしか観ないもんな」

「息抜きにはあれくらいがちょうどいいんですよ」

「俗世の面倒くささに比べれば、娯楽作品の小難しさなんか話にならんか。オレにもわからなくもない。だが、美女まで作りものがいいとか言い出さないか不安になる」

 パトリックも名家の出だけあって政治のおどろおどろしいところも知っている。

「そこまでは。でも、君みたいに有名女優を評論するほど興味ありません」

「女性の美の良いところ、もったいないところを正当に評価するのは男の必須科目だろうが」

「それはパッキー種だけの特質なのぉ」

 クーファに茶々を入れられている。


 ルオーはあまり娯楽として映像作品を観ない。目を労る気持ちの表れであり、現実とのギャップで感覚を鈍らせない手段でもある。なにせムービーの戦闘シーンを観ても射線など見えない。


「パッキー言うな。ただでさえ、この猫耳娘みたいなアニメに片足突っ込んでるようなの近くにいさせて平気なんだからな」

 仕返ししている。

「クゥはパッキーみたいに性欲の化身じゃないしぃ。ちゃんと理性ある女の子だもん」

「おーおー、最近の世の中の理性ってやつはずいぶんと緩くなったもんだな」

「だとしたら、パッキーの倫理観が一番緩くてぇ」

 顔を突きつけての言い合いになっている。

「まあまあ。お互い偏ったところがあるのは当然ですし、そこが人間的魅力であると……、感じる人もいる? ……でしょう」

「迷うな。そもそもお前が一番偏ってるわ。いつものほほんとどんぶり勘定で適当に色々首突っ込みやがって」

「最終的には帳尻合わせてるんだからいいじゃないですか」


 相方の言い分も否めない。依頼(オーダー)に興味を抱く端緒はざっくりとしている。ときにはそれほど意味のない仕事だったと感じることもザラだ。


「赤字は出さないよう努力はしてます」

 それも善処というレベルではあるが。

「オレみたいにきっちりした仕事を選べ。今回の件みたいに予算額が大きいと見込める依頼(オーダー)なら確実に取りっぱぐれはないぞ」

「面白い仕事ならいいんですけど」

「お前の面白いの基準が偏ってるって言ってんだ」

 矛先がこっちに向く。

「仕事を仕事じゃなく人間として見るのはやめろって言ってんじゃん」

「単なる仕事だとやりたいことじゃなくなってしまうんです」

「世間じゃルオーみたいなのを道楽者っていうんだぜ」


 パトリックの評価は間違いではない。ルオーは自身を道楽者で構わないと思っている。両親のところへ入るライジングサンの株式配当など有って無きがものくらいでいい。


依頼(オーダー)に若い女の子が絡んでるかどうかで仕事の入れ込みようが違うよりもマシかもー』

 愉快そうに踊りながらのティムニがツッコミを入れている。

「く、それは男の性だろうが」

「ルオはそんなことないよぉ?」

「フィードペダル踏むくらいしか下半身に用のないのと一緒にすんな。ほんとに付いてんのか心配になる」

 皮肉られた。

「えー、ルオ、付いてないのぉ?」

「心配しないでください。人並みに……、かどうかは知りませんが一応付いてます」

「そう? 見せてぇ」

「見せませんから」


 純粋な好奇心で言われても困る。自制はしているが、そこまでクーファを異性として意識していないわけではない。


「それじゃ、今度一緒にお風呂入るぅ」

「入りません。それより、先方が近づいてきましたよ」

 接近してきた貨客船を示して話を逸らす。

「おっきい」

「五倍はあるからな。直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)繋げるか?」

「向こうさん次第ですね。ロケ地に向かう前に顔合わせくらいはするつもりかもしれません」

 相手から回線を繋げてくるまで待っている。

識別信号(シグナル)出してますから、こっちがライジングサンだとわかってます。それでも指示がないので一度は移乗する感じですか」

『リクエスト来たー。貨物客船『チニルケール』船長だってー』

「繋げてください」


 一般的な受け答えのあと直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)の接続を許可された。先方もチャーター船で、ユーザーの希望を伝えてきたようだ。


「どこだって?」

 接続先の話だ。

船底(ボトム)らしいです。やはり客船や軍艦艇みたいに設備が整っているわけではないですね」

「しゃーないな。荷物と変わらん扱いか」

「似たようなもんでしょう。エキストラスタッフです」

 それでも顔合わせを試みるのは、少しは認められていると考えるべきか。

「それでは、指定の場所に直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)を繋げますよ」

「おう、行くか」

「探検するぅ」

「探検はしませんよ」


 ルオーは席を立ってクーファの肩を引き寄せた。

次回『顔ぶれ揃い(4)』 「ティムニに角が生えますよ」

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