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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ
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顔ぶれ揃い(2)

 戦闘艇ライジングサンが時空間復帰(タッチダウン)したのは惑星リコレントの領宙外である。そこはタイタフラ宙区に属し、今まで彼らが活動範囲にしていなかった星域。辺境というわけではないので宙図(マップ)に困ることはないが、入国手続で登録実績がなく手間取った。


「今回は君が選んだ依頼(オーダー)。譲歩したんですから問題は勘弁してくださいね?」

 ルオーは念押しする。

「もちろんさ。なんの不満があって問題なんて起こす? ムービーの撮影現場なんて満開の華咲く花壇みたいなもんじゃないか。オレはウキウキで仕事に専念するって」

「その仕事ぶりが怖いんですよ。いいですか? 僕たちがするのは実際のアームドスキン操縦のレクチャーと、ついでのエキストラ出演であって、俳優さんに絡む部分は前者だけですからね」

「わかってるわかってる。全力で手取り足取り腰取り演技指導しちゃうよん」

 不安で仕方ない。

「腰は関係ないのぉ」

「女性俳優には接触厳禁です。ルール違反で速攻追い出されてしまいますよ。僕たちの居場所はエキストラ側です」

「そんなむさ苦しそうな場所にいられないっしょ?」


 パトリックが承知するわけがない。今回ばかりはいつものことと放置するのは難しいと感じていた。なにを仕出かすかわからない。


「先方の選定基準はおそらく子ども向けのレビュー評価からです。無害だと思われてるから呼ばれたのだと忘れないでください」

 無駄と思いつつも言い添える。

「無害だ、無害。女性を喜ばせることしか考えてないオレには最適じゃないか」

「もっと色々考えてほしいんですけどね」

「頭の中身は犬並みでぇ」

「誰が犬並みだってんの!」


 そう言うクーファは今日はワンコ耳装備である。猫耳と相まってなかなかにアンマッチであるが、撫でろアピールはいつもより激しい。


「で、ロケ地はどこだって?」

 肝心なことには無関心で困る。

「知りませんよ。ムービーのロケ地なんてそうそう明かしてくれるわけないじゃないですか。もし、僕たちがリークしたらどうするんです」

「ファンが殺到するな。可愛い子揃ってんじゃね?」

「君みたいな短絡思考な輩がいるから正式契約までは目的地もわからない始末です。ロケ用にチャーターした貨物客船と合流してから向かうんですよ」


 キャストにニコ・ハーヴェイという人気俳優が名前を連ねている。芸能界に興味の薄いルオーでさえ耳にしたことがある名だった。リークなどして問題化したら訴訟ものである。


『会戦戦場跡だってー。なかなかドラマチックな場所選んでるー』

 彼のσ(シグマ)・ルーンから飛び出したティムニのアバターが踊りながら伝える。

「潜り込んだんです? あまりよくありませんよ?」

『だってガード甘々なんだもん』

「管理局のデータにまで引っ張ってくるような君に、甘々じゃないとこなんてないでしょう。知らないフリしてくださいね」

 釘を差しておく。

「戦場跡ってデブリ帯かい? よくそんなもの残ってたな」

「クゥはよく食べるけどデブりたいんじゃないのぉ」

「ええ、太りたくなかったら控えましょうね」


 犬猫耳少女はキョトンとして言う。宇宙ゴミ(スペースデブリ)は近年あまり見ることは叶わなくなってきたので知らなくても仕方ない。簡単に説明すると目を丸くしていた。


「領宙外ですが、リコレント国軍が演習地として利用するために星間管理局に申請して残してあるもののようです」

 ルオーは検索結果を読む。

「普通はお掃除しておくものですけどね」

「そうなんだぁ」

「航宙の邪魔にしかなりません。ほとんどの船舶がその手前で超光速航法(フィールドドライブ)するからどうにかお許しが出たらしいです」


 昔に起こった戦争の痕跡が、惑星リコレントを含む恒星系を巡るデブリ帯として残っている。領宙となる惑星標準軌道から五万km以上離れた公宙(ハイスペース)にあるので本来は星間管理局の管轄であるのだが、当該国の事情を鑑みて柔軟な対応がなされたのだろう。


「戦争の多い国ぃ?」

 クーファは少し不安げにする。

「いえ、ずいぶんと前のものです。百八十年以上経過していますね。それが最後の戦争だったとあります」

「じゃあ、平和ぁ? 美味しいものあるかなぁ」

「仕事が終わってからですね。ロケ地にはクゥが食べられそうなものはないと思います。あとはチャーター船に環境が整えられているのを期待しておきましょう」

 エンタメ事情に疎いルオーには窺いしれない。

「そこはあまり期待しないほうがいいぜ。仕事に夢中になると食事なんてエネルギー補給程度にしか考えてない手合が多い業界だって聞いてる」

『デリバリーなんて無理無理だしー。現場のケータリングが充実してるなんてお客の歓心を買うイベント事じゃないと気遣われないとこー』

「クゥは飢えるかもしれないのぉ」


 出演者がオフショットを公開しがちな集客イベントであればスタッフも努力する。しかし、第三者の関与がない撮影現場ではおざなりにされてしまう部分であろう。


「見越して、しっかりと食材揃えてきましたから、困ったらライジングサンでの食事にすればいいんですよ」

「ルオ、気が利くぅ。大好きぃ」


 抱きついてくる犬猫耳娘を優しく受け止めたルオーだった。

次回『顔ぶれ揃い(3)』 「パッキーの倫理観が一番緩くてぇ」

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