夜明けは近く(5)
機甲部隊の輸送船への突入によって密猟者グループは戦死者以外全員が摘発を受けた。警戒に残っていたアームドスキン隊にも解除命令が下りる。
「ご苦労だった」
クガ司令は、マメにルオーにまで声掛けしてくる。
「いつもながら見事な働きだな。まだ気は変わらないか?」
「残念ながら。珍しく長めの依頼に応じたのですから今回は勘弁してもらえません?」
「そうだな。傭兵協会への招集と変わらない単価で動いてくれるのだからありがたい。それ以上は贅沢か」
説得に応じてくれる。
「もし、おねだりを許してくださるなら次の依頼も優先的に受注させていただきますが」
「なんだ? 珍しいな。言ってみろ」
「ニコルララへの三日間の滞在延長を。それでこの生物保全惑星の情報をクリアすると誓いますので」
心残りがあった。自由な状態でコリトネルたちと思い切り遊んで、それでリセットしようと思ったのだ。クーファもちゃんとさよならしたいだろう。
「上陸休暇は考えていた。ベースキャンプの撤去までは参加パイロット全員に当該惑星での休暇を与える」
蓋を開ければ大盤振る舞いだった。
「ありがとうございます」
「申請を必要とするが、ライジングサンには今後も上陸許可を出すよう取り計らっておく。バカンスくらいには使うといい」
「大変なご配慮感謝いたします」
ずいぶんと餌を撒かれたものだ。それほど見込まれているのを拒むのは心苦しいが、今後も星間平和維持軍に入隊するつもりはない。ただし、可能なかぎり協力は惜しむまいと思った。
「司令も降りられては如何です? いいところですよ」
「悲しいことに処理で忙しい。また、機会があったら一緒に食事でもどうかね?」
「お誘い、待っています。新メンバーも紹介したいですし」
ルオーは気のいい司令官との会話を楽しんだ。
◇ ◇ ◇
「クゥがボスなのぉ! わかったぁ?」
「プー」
「プピー」
このボスはあまり尊敬されていないらしい。鼻から発射した弾幕で塩漬けにされかけている。ビスチェビキニのクーファは腕組みして仁王立ちで耐えていたが、限界が来て追いかけはじめた。コリトネルたちは一斉に逃げ出す。
「あまり深いところまで行かないんですよ?」
注意しておく。
「行かないのぉ!」
「まあ、適当にあしらってくれるだろ」
「ですね。この子たちは意外にお利口さんですから」
胡座をかいた下半身が波に洗われる深さの場所にルオーは座り込んでいる。珍しくパトリックも横で足を伸ばしていた。
「いいんですか?」
浜辺ではオスルたちGPF隊員と傭兵協会のメンバーが交流を深めていた。テーブルを出してパーティーをしている。魚介や肉の焼けるいい匂いが彼らのところまで漂ってくる。
「収まるところに収まったんじゃね?」
ルガーは打撲や骨折などで軌道艦隊に収容され入院中。残った女性陣の中心にいるのはモッサであった。今回株を上げた彼が一人勝ちの格好だ。パトリックにもお誘いが来るが引っ張っていかれるほどではない。
「珍しいですねぇ。君はこういうの苦手でしょう?」
「そうでもない。オレだって人ばかりに気遣っていれば疲れる」
「ライフワークなのかと思ってました。結局、誰にも手を出しませんでしたからね」
パトリックに喉を撫でられたコリトネルが「プフー」と目を細めている。我も我もと周りを囲まれていた。ルオーは変わらず膝を占拠されている。二人も今日は水着だった。
「シンプルな好意って気が休まるだろ?」
「確かにそうですが」
「クゥに懐かれているお前には日常茶飯事だろうけどさ」
クーファは必死に泳いでいるが海洋生物に追いつけるはずもない。ウサ耳が海上監視カメラのように右往左往している。完全に遊ばれていた。
「彼女たちとは楽しい楽しい駆け引きをしてるのさ。お前が相手の黒幕の思惑を読んで駆け引きするのと同じだ」
「僕は決して楽しんでいるわけではないんですけど?」
「そりゃ、お前にとっては難しくない、できることなのかもしれんがな。オレたち、頭の出来が普通のやつにとっては難題なんだよ」
パトリックも彼の利用価値だけを認めているのではない。友情のようなものを抱いているのはライジングサン立ち上げからの付き合いでわかっている。
この相方もなにかと小器用な自分になにができるか手探りしているのだ。それが英雄願望として表れている。
(自分一人ではできることにかぎりがある。それは僕も一緒。たぶん、パットは二人ならもっと大きなことができると感じたんだろうね。だから、それまでのなにもかも捨て去ってライジングサンに来たんだ)
友情とは異なる連帯感で結ばれていると思っている。
(期待に添いたい気もするけどそれは違うんだね、きっと。僕のやりたいことと彼の目指すものがマッチしたとき最大限の力が出る。その結果がパットの望むものであればいいと思っておこう)
気ままにいこうと思う。お互いを拘束せず、お互いを無視するでなく、情に駆られるほどの関係でもなく、程よい距離感でバディを組んでいれば運命に導かれるだろう。ティムニとの出会いのように。
ルオーは這い上がってくるコリトネルをあやしながら水平線の向こうを見つめた。
次はエピソード『意地を通せば窮屈だ』『顔ぶれ揃い(1)』 「そういえばアドバイス兼務のエキストラはなんて言ったっけ?」