夜明けは近く(４)
航宙輸送船といえど旧式のもの。本来は大気圏降下用に設計された船体でなく、反重力端子ユニットを後から組み付けして飛行を可能としている。
（グラビノッツの端子突起を破壊すれば自重に負けて飛行できなくなる）
ルオーの狙い目はそこだ。
中のコリトネルたち現住生物に被害を出さず輸送船を確保する方法として有効である。ただし、船内に貫通しない角度で狙撃しなくてはならないので接近は不可欠。ルイン・ザはパトリックとオスルの援護を受けつつ戦場を突き抜ける。
「どれだけの数、どこに反重力端子が設置されているかわかりません。舐めるように飛行します」
幾つ破壊すれば静かに落とせるかもわからない。
「やれ。後ろは任せろ」
「ミッション成功まであと一歩だよん。張り切れ、ルオー」
「言うまでもありません」
一つ二つまでは順当に破壊する。しかし、こちらの目論見が知られると妨害に敵アームドスキンが集まってくるようになった。それだけパトリックたちの負荷が大きくなる。
「まだ、こんなに残ってんのかい」
さすがの相方も苦い声。
「味方が追撃もしてるから不用意に撃てないな。夜間戦闘はこれだから」
「ヒヤヒヤもんだ」
「識別信号捕まえて二秒で接触とか勘弁してくれ」
二人とも難儀している。いつまでも援護は期待できないかもしれない。そこでようやく一隻目の輸送船がゆっくりと落下しはじめる。強引に船体を立ててスラスターを噴かし、必死に離脱を図ろうとするも重力圏内では自重に勝てない。
「落ちます。確保してください」
視界から下がっていく輸送船を放置する。
「ルオー、お前は」
「次に行きます。もう一隻で終わりです」
「だが、一人でどうにかなるもんじゃないぜ？」
オスルが交戦しつつ言ってくる。
「なんとかしますよ。密猟者がヤケクソで無謀をしないよう監視してください」
「気をつけろ、ルオー」
「おい、一人で行かせんのかよ」
言い争いを聞いている暇はない。
（一人残らず脱出させてやれないねぇ。悪い前例を作ればニコルララが狩り場になってしまう）
完璧に摘発されてこそ、このミッションは成功なのだ。
重力波フィンを最大展張して加速する。二隻目の輸送船に近づくほどにスラスター光も集まってきた。振り切るように船体に添わせて飛ぶが、追跡を受けてしまう。
（どうせ雇われだろうに頑張って抵抗してくるねぇ。保全惑星に手を付けるってのがどれほど重罪かわかってるならやめとけばよかったのに）
反転飛行して襲ってくるビームをプラズマボールに変える。紫色の光球を抜けてくる影を狙撃して撃破していった。それでもまだ数は多い。
「スナイパーが突入してくるとか無謀だろうが！ さっさと墜ちやがれ！」
「後悔しても遅えかんな！」
迂回してきたアームドスキンに挟撃される。接近すればこっちのものと嵩にかかって不用意に迫ってくる。
「もらったぁ！」
真横に入られる。撃とうと振り向けば反対側からの攻撃を受ける。相手にしてみれば取ったも同然の状況。
「なにぃ！？」
ルイン・ザは右腕一本で重たいスナイパーランチャーを振り向ける。発射しつつ、下から上まで舐めるように一閃した。左右に両断する。
「がはぁ！」
「この野郎が！」
反対からの敵機には左手に抜かせたビームランチャーを持っている。即座に照準してど真ん中に直撃させた。
「馬鹿な！ どうすればそんなパワーが！」
「できるんですよ。できなければこんなとこまで来ません」
「なんてアー……」
最後まで言えずに爆散する。
追撃を振り切ったルオーは丁寧に反重力端子を破壊していく。しばらくすると輸送船の船体は静かに下降しはじめる。操舵室の前まで行ってビームランチャーを突きつけると密猟者は一斉に船内へと逃げていった。
（これで無駄な抵抗もなくなるかな）
戦闘はまだ続いている。ルオーは船体の上にルイン・ザを立たせ、流れ弾が巨大なボディに被弾するのを防ぐ作業に移った。
「ルオー、無事か？」
「もちろんですよ」
パトリックもやってくる。
周囲の戦闘は徐々に下火になっていった。ルイン・ザの足元が大きく揺れる。輸送船が海面まで達して、大きな波しぶきを上げつつ海面を割って進む。中は空気なので反重力端子を失った状態では沈没はしない。
「終わりましたね」
「ああ、ちょうど夜も終わりだ」
「もう夜明けですか。君にしては粋な表現ですね」
「オレはロマンチストなんだよ」
惰性で進んでいた輸送船も海水の抵抗でゆったりと停止する。水平線が少しずつ藍色に染まっていき、それが明るみを増していった。そして、朝日が周囲を照らす瞬間がやってくる。
「こうしてみると、エンブレムのライジングサンのとおりだな」
「誰にでも朝日は平等に降り注ぎます。それを希望の光と感じてもらえるのなら、僕はどれだけ難しい依頼にも応えたいんですよ」
「少なくとも、あのピラピラたちはお前に感謝するだろ」
「だといいんですけどね。船内の捜索は降下してきた機甲部隊にお任せですし、しばらくは景色を楽しみましょう」
ルオーはルイン・ザを座らせて登ってくる朝日を眺めていた。
次回『夜明けは近く(５)』 「クゥがボスなのぉ！ わかったぁ？」
