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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
情に棹させば流される
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夜明けは近く(3)

「加速するぞ。さっさと敵機を排除して止める」

 モッサ・オーラーは声を張り上げる。


 密かな脱出をかなぐり捨て、プラズマブラストを派手に噴かす輸送船。離脱を防ぐには護衛のアームドスキンの排除を進めなくてはならない。


「数多い」

「それでもだ」

「モッサったら振り切れた?」

 揶揄されるがそれどころではない。


 接近を阻もうと敵機が牽制のビームを浴びせてくる。応射の砲口を向けたが、後ろから走ったスナイピングビームに貫かれて爆発した。


「援護あるうちに叩け。混戦になったら期待できないぞ」

「了解よ」


 別班の接近も知らされている。識別灯も頼りにならなくなった。同士討ち(フレンドリファイア)を避けつつの近接戦闘ではどうしても敵味方入り混じっての戦闘になる。


「各人、リフレクタを使ってお互いの背中を守れ」

 具体的な戦術を伝える。

「フォーメーションを維持しつつ移動しながら敵を撃滅する」

「効率悪くね?」

「それよりも確実な方法だ。味方を失わないほうが最終的に戦果は大きい」

 理由も連ねた。

「さすがモッサ。経験値が違うわ」

「ついてく」

「リーダーになってきてくれて嬉しいかも」


 強引すぎたかと思ったが逆にウケがいい。今後の参考になると思うも、今はそれどころではない。分散した敵機が散発的に襲ってくる。


(密猟者グループに飼われてるだけのパイロットだ。腕は大したことない。どこにも属せずドロップアウトしたような輩が吹き溜まってる)


 彼らの一団に対して単機で挑んでくるのがその証左である。撃退も難しくない。しかし、輸送船に近づいていくほどに密度は上がっていく。


「削れてきてるが、ここまで生き残ってるやつはレベルも上だ。心して掛かれ」

「っても、たかが知れてる!」

「突っ走るな、ルガー」


 突出して迎撃しようとする僚機。抑えようとするも間に合わない。敵機と斬り結んだところ別の機体に横殴りされてさらわれていく。


「あの馬鹿!」

「手が焼ける」


 見捨てるわけにもいかない。急いで救出に向かう。ルガー機は捕まって嬲りものにされていた。片手を失い、腰にも被弾している。


「くそ、どこから出てきた?」

 文句を言っても遅い。

「識別灯を模倣している敵ばかりじゃないってわからなかったか。暗闇に隠れたままで狙われたんだ」

「汚い連中が!」

「それどころじゃない。お前、際どいところに喰らってるぞ。脱出しろ」


 腰の被弾口からプラズマ炎がもれている。危険な兆候だった。


「この状況でっ」

 脱出を躊躇っている。

「ぼくたちを信じろ。拾ってやる」

「さっさと排出操作をしなさい! 誘爆寸前よ!」

「げぇ!」


 ルガー機のフロントハッチが吹き飛ぶと操縦殻(コクピットシェル)が放り出される。が、しかしタイミングが遅かった。アームドスキンが誘爆を起こし、その衝撃がコクピットブロックを吹き飛ばしてしまう。


「ルガー!」

「ぼくが拾いに行く。君たちは敵機を」

「わかった」


 弾丸のように打ち出された操縦殻(コクピットシェル)が落ちていき、海面でバウンドしている。モッサはライトを点けて必死に追うがなかなか追いつけない。


(このままではぼくが狙われる。どこで見切りをつける?)

 似たような状況で爆散し、死体も残せなかった戦友の光景が脳裏をよぎる。


「モッサ、追って!」

「ピレニーか?」

 背中に心強さを感じた。

「みんなは?」

「ついてきてる。あのくらい三人で一撃よ」

「そうだ。そうだな。ぼくたちはそれほど弱くはない」


 GPFパイロットやライジングサンの二人に圧倒されて自信を失っていたかもしれない。だが、彼らとて管理局の招集に応えられる傭兵協会(ソルジャーズユニオン)の若手勇士なのだ。


「取った。戻るぞ」

 拾ったコクピットブロックを左手に抱える。

「中身は?」

「死んでないんじゃない? 静かにしてくれてたほうがいい。少々振り回してもいいから、モッサ」

「ひどいな」

 普段の行いがこのあたりに表れる。

「よし、戦線復帰する。任せてもいいな?」

「前面はこっちでやるからリーダーは全体を見て」

「もうちょっと撃墜数稼がないと他に嫌味言われる」


(心配ばかりしてないで信じるのが先決か。こういうのが本当の連帯感なんだろうな。先輩たちはこれを感じさせずにやってくれていた)


 モッサは改めて先人の強さを心に刻んでいた。


   ◇      ◇      ◇


 重力波(グラビティ)フィンを展開したルイン・ザを前に出すとやはり狙われる。ただし、それはルオーにとって敵の位置を教えてくれるサインに過ぎない。


(怖れられるくらいに墜としてく時間はないか。少し強めに押し出していこう)


 リスクはあるが言っていられない。輸送船が本格的な加速に入ると取り付くのに時間が掛かりすぎてしまう。低空のうちに海面に引きずり降ろさねば、積まれているコリトネル含めた現住生物に悪い影響がありそうだ。


「後ろは気にするな。墜としにいけ」

「パット?」

 無線交信に驚く。

「おいおい、相方の存在を忘れるな」

「俺だっているぜ」

「オスルまでですか。他はどうなんです?」

 負担になったかと思う。

「フローネはシュー隊長と組んでる。俺はこいつとって話だ」

「男と呼吸を合わせるなんて一生の不覚」

「言ってんじゃねえ!」


 心強い援護を受けてルオーは本気スイッチを入れるつもりになった。

次回『夜明けは近く(4)』 「馬鹿な! どうすればそんなパワーが!」

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