ドンデミル号襲撃事件(1)
星間平和維持軍のパイロット、オスル・ドライガー操機長補はフィットバーに噛ませた腕を動かさないよう我慢するのに必死だった。眼の前には彼の助けを必要としている星間銀河加盟国民がいるというのにままならない。
(ここまで来たのになにもできないだって?)
腹立たしくて仕方がない。
オスルが乗っているのはアームドスキンと呼称される人型の機動兵器。全高は20m。人間のサイズを十倍以上にも拡大した汎用兵器である。
パワーにいたっては十倍どころではない。標準装備されている対物レーザーだけでもかなりの攻撃力を有する。さらには様々なハンディランチャーを装備することで攻撃力は比類なきものになる。
(無敵だなんてまやかし)
下唇を噛む。
元はゴート人類圏だった新宙区が加盟して早二十年、流入したアームドスキン技術は異常ともいえる速度で拡散された。単体で大気圏突入離脱も自由自在。各種武装も取り扱えて、格闘戦まで可能という破格の存在。単独作戦能力はそれまでの歴史を塗り替えるに十分だ。
(そのアームドスキンに乗っているのに、このざまだもんな)
手も足も出ない。
約2000m先の宇宙空間にはドンデミル号が浮かんでいる。旅行ツアー船と聞いていた。全長300mの船体には乗客乗員五百二十三名を乗せている。
包囲しているのは正体不明の武装集団。なんと三機のアームドスキンまで有している。そのビームランチャーがドンデミル号を指向しているかぎり迂闊なことができない。
「パシミール旅団長、まだでしょうか? このままでは突入されてしまいます」
所属する戦闘艦クルヌーイの指揮官に具申する。
「待て、ドライガー操機長補。君を信用していないわけではないが、予測される被害を最小限に抑える手段がある。到着するまで控えるのだ」
「それはすぐのことなのでしょうか?」
「うむ、運良く捕まったからそう時間は掛からないはず。無論、限界はあるから私が判断する」
武装集団と睨み合いの状態となってすでに二十分近く。彼らクルヌーイ所属機三十による牽制にも限度がある。攻撃してこないと見るや、武装集団は行動を開始していた。
「侵入されたらお終いですよ? 手出しはほぼ不可能になります」
「情報部の情報では政治的背景が窺えるそうだ。簡単には被害者は出せないはずである」
内部に入られて直接人質を取られればアームドスキンなど無力である。
(どうしてだ。俺が焦りすぎてるとでも?)
心当たりはある。
(せっかく国家駐留艦隊を卒業して宙区管轄の警備艦隊に配属されたのに。それも幸運にも新進気鋭と噂されるクガ・パシミール旅団長の艦だってのに)
オスルは地方公務官学校卒の十八歳でGPFに入隊。惑星国家ナシュレの駐留艦隊に所属し、操機士として七年任務に就き、ようやくパルミット宙区警備艦隊に着任。一年が経過して二十六歳で操機長補に昇進したところ。
(エリートには宇宙の御用聞きなんて揶揄されるけど立派な職務だと思ってる)
宇宙と呼ぶには狭すぎるが、それでも広大な空間の平和を保つ任務である。
(宇宙どころか、眼の前の小さな航宙船の平和も守れないっていうのか? そんなんで、俺、役に立ってるって言えるのか?)
星間管理局はこの銀河に一万以上も存在する惑星国家を統制管轄する機関である。統治は各惑星国家政府が行っているが、貿易の自由、航宙の安全、国際人権保護は国家では担保できない。それらを統括しているのが星間管理局である。
そのうち、航宙の安全を担保するのが星間平和維持軍の役割だ。加盟惑星国家からの要請を受けて、宇宙での様々なトラブルに対処する。ゆえに御用聞きなどと陰口を叩く者もいる。
(惑星上を管轄する星間保安機構と並んで、俺たちがいるから星間銀河圏の秩序は守られているっていうのに言われ放題なのは癪に障る。でも、こんな事案で被害者を出すようでは後ろ指さされてもしょうがないか)
オスルが不用意に動けない一因である。
守りたいという意識の中に活躍したい、讃えられたいという欲望がないとはいえない。それでも結果は結果。人の役に立つ仕事をしている自負がある。だから、いつ死ぬとも知れない任務に従事していても、親兄弟、友人知人に誇れる自分でいられる。汚れ役と貶されてもいい。
(でも、これは……)
手遅れになりつつある。
アームドスキンの一機が牽引してきた戦闘員がドンデミル号への侵入を試みている。頑健に作られたハッチをレーザートーチで破ろうとしている光がこぼれてきていた。作業が終わって、戦闘員がハイパワーガンを乗客に向けたら最後である。逃げるに任せるしかできない。
(そりゃ、最先端のイオン駆動機搭載アームドスキンじゃない)
流行りの新型機『カシナトルド』や『ヘヴィーファング』は中央宙区や星間軍に優先的に配備が進んでいる。
(こんな地方宙区にまわってきやしない。でも、この機体『ゼスタロン』だって新しい世代のアームドスキンなんだ。期待されて任されたっていうのに)
「こんなところで!」
思わず声が出る。
「好き勝手にぃ! ……はぁ?」
そのとき、オスルの視界を一筋の光がよぎっていった。
次回の『ドンデミル号襲撃事件(2)』まで同時更新しています。続けてどうぞ。