697.自慢の奥様なのですが ***SIDE家令
奥様は本当に不思議な方です。まだお若く、旦那様より一回りも年下なのに、その豊富な知識と発想力はどこから生まれるのやら。奥様が嫁いでこられてからは、驚きの連続でした。
先日もまた、驚きの提案がありました。家庭菜園を作りたい、と。家庭菜園の意味を尋ねると、どうやら小さな畑のようで。様々な種類の野菜を少しずつ、あまり広くない畑に植える。なるほどと納得しました。一般の平民の家庭の庭でできる程度、自家消費分だけ作る畑のようです。
広大な敷地を有する貴族邸は、ほとんどが酪農や農業、その他の産業を囲い込みます。これはかつての戦争が続いた時代の名残りで、敵に囲まれても生き抜くための知恵だったと聞きました。
普段は乳や毛を提供する羊やヤギを、緊急時は食肉として活用する。野菜もある程度育てておくことに加え、穀物の備蓄を倉庫で保管する。軍馬も敷地内で管理し、鍛冶師など戦に必要な道具を作る者も近くに住まわせて保護した。
よくできたシステムです。城塞都市という名称で、屋敷を中心に高い壁で囲っていました。戦争が減り平和になると、今度は壁が邪魔になって壊される。今のように貴族の敷地の間に大きな壁がないのは、平和の象徴とも言えるでしょう。
奥様はご存じのようで、若様達に「農作業を体験させる」と仰る。猫を飼うと言い出された時も感じましたが、奥様の見識は広く深く、その視界はどこまでも透き通っておられるのでしょう。未来を見透かしておられるかのように思うこともあります。
ガラスボタン、巻きスカートなど流行を生みだした奥様の影響で、公爵家はもちろん貴族家で出産ブームが起こりました。加えて、温室も流行の兆しがあり……ガラスボタンで技術に定評のある領地も潤っています。
すでに畑を有する貴族邸が多いので、家庭菜園が流行する可能性は低いでしょう。それでも若様達が自発的に世話をすることは素晴らしい。
他家に自慢したい最高の奥様ですが、実は絵が……その、何と言いましょうか。個性的、いえ独創的な絵をお描きになります。今回も「紙芝居」なる綴じていない絵本を作ると仰り、解読不能な絵を量産なさいました。さすがにこの作品では、若様はともかくお嬢様は泣いてしまわれるでしょう。
ケンプフェルト公爵邸には、様々な技能を誇る使用人がおります。侍女の中で絵の得意な者を選び、裏の物語に合わせた絵を描かせました。裏の文章がなければ、絵の解読で数週間かかったかもしれません。
綺麗に仕上がった紙芝居を、奥様は喜んでくださるといいのですが。




