695.人参はカラーミックスで!
根菜類は種から育てる。ティムの用意したのは、人参だけだった。でも色が様々なの。もしかして私も気づかずに食べていたのかもしれないわ。オレンジ色のほかに、黄色と紫、大根に似た白がある。これを色別に蒔くのかと思ったら、ティムは同じ箱にすべて入れて混ぜた。
「混ぜるの?」
「へぇ、このほうが抜いたときに楽しんでもらえると、思ったもんで」
「いい考えだわ!」
私では思いつかなかった。たくさん生えた人参を抜くとき、色がカラフルで何色が出るか、わくわくしながらだと楽しいわ。ティムにお礼を言って、さらりと混ぜた。
「ぼくも!」
レオンが真似したがり、ぴょんぴょん跳ねて訴える。ティムが箱を持ってしゃがむと、中に手を入れてぐるぐると回した。
「らるふ、して」
頷いたラルフがかき回し、当然のようにローズも主張した。手を挙げて「あたち!」と叫び、ヘンリック様が抱き上げて手を入れる。最後にヘンリック様もやりたそうなので「あなたも混ぜて。おまじないのようなものよ」と告げた。
「ああ」
無表情を装うけれど、嬉しかったんでしょう? ふふっ、大人の男の人はこういう時に照れて隠しちゃうのね。お父様もぶっきらぼうになることがあったわ。
畝の中心に細く線を引くように棒で抉る。その部分へ種を蒔いて、優しく土をかけた。レオンったら、土をかける時に息を止めるのよ? 吹いたら飛んでしまいそうな小粒の種だからね。ローズはやや豪快で畝を崩しそうな勢いがあった。後でティムに直してもらう必要があるわね。
普段はそつなくこなすヘンリック様やラルフは、やはり問題なく作業を終えた。また土が付いた手を洗い、温室へ移動する。水やりは庭師達に任せた。というのも、絶対にレオンやローズもやりたがるでしょう? 人参の種は薄く土をかけただけだから、ジョウロで水をやったら掘り起こしてしまう。
小鳥に種を食べられてしまうわ。それ以外にも、公爵邸の林には野生動物が棲んでいた。彼らに新芽を食べられないよう、柵や網で畑を保護するの。繊細な作業だし、今日中に終わらせたいはずよ。子供達と一緒では、終わらないと思う。
ティム達に作業を任せるのも、公爵夫人のお勤め。同時に、夫ヘンリック様や子供達の気を逸らすのも……私の仕事ね。温室へ誘導すれば、手際のいい侍女達がお茶の支度を整えてくれる。
「フランク、あとでティム達に茶菓子を差し入れてくれるかしら? 今日は大変な作業をさせてしまったの」
ヘンリック様に届いた手紙を運んできたフランクに頼んだ。快く引き受けてもらえたので、安心してお茶を楽しむ。お茶菓子はスコーンね。気の利く家令が、ジャムやクリームも一緒に差し入れてくれるといいけれど。




