681.今日は何したの?
さらに意外な意見ももらった。この世界では「食べ物を粗末にしない」という考え方はあるものの「食べ物で遊ばない」という教えはない。食べずに捨てる行為は貴族であっても厭うため、食べ残しを使用人に与えるのもここからきていた。
でも、『食べ物で遊ぶ考え』そのものがないの。遊び道具は遊び道具、食べ物は食べ物、完全に分けて考えられてきた。私の言葉にリリー達が首を傾げた気がしたのは、不思議に思ったからなのね。
「本当に君は素晴らしい」
得難い妻だと大絶賛されたら、照れてしまうわ。だって前世の知識であって、私が発案者ではないんだもの。だから、たまたま出会った商人からの知識と誤魔化した。本から……と言いかけたけれど、ヘンリック様はその本を探しそうなんだもの。
最後は春祭りのことだけれど、子供達はお腹がいっぱいで眠そう。先に今日のおさらいをしましょうね。
「今日何をしたのか、お菓子のこと以外をお父様に教えて頂戴。ローズ」
先にローズを指名したのは、最初に寝そうだから。うとうと船を漕いでいたローズは、目を擦りながら欠伸を一つした。
「んと、にぇこ……した」
猫? 猫と遊んだ記憶はないけれど、どこで拾った話かしらね。そこで力尽きて眠ってしまったので、これ以上尋ねることもできない。ヘンリック様がくすっと笑い、抱き上げてマーサに渡した。最近は胡坐を掻くのが上手になったのよ。足も痺れないみたい。
「ねこ?」
レオンが首を傾げる。目がとろんとし始めて、こっちも寝ちゃいそう。
「レオンのお話が聞きたいわ」
「お菓子して、お絵かき……した」
ふとそこで思い出す。そう言えば、レオンが描いた絵を「猫かしら?」と思って見たのよ。ツノが生えていたけれど……もしかしたらツノじゃないかも? それならローズが伝えたかったのは、お兄ちゃんが猫の絵を描いた、だわ。
「そうね、可愛い……絵だったわ。ローズもぐるぐるした絵を描いたの。あとで見てあげてね」
「それは楽しみだ」
ヘンリック様が私の隣に座る。「見てあげてね、あなた」と言いたいけれど、やっぱり人の目があると恥ずかしいのよ。照れながら頬を両手で包んだ。
「ラルフは?」
「僕も絵を描きました。褒めてもらえて嬉しかったです……レオン、寝ちゃいそう?」
「ううん」
返事は立派だけれど、半分寝ているわ。うとうとと頭が縦に揺れて、時々体が横に傾くの。子供のバランス感覚って優れていて、ぎりぎり倒れる直前で持ち堪えたり、持ち直したり。大人になったら簡単に倒れちゃうわ。
リリーが促し、二人は挨拶して部屋を出た。ユリアーナに話を聞いたら、彼女は刺繍をしていたらしい。ユリアンの話が出たから、彼のネクタイとハンカチを作るとか。春祭りの話まで、できなかったわ。寝室で聞いてもらいましょう。




