680.話が大きくなって焦るわ
幼児がいるため、シフォンケーキは一口サイズにカットしてもらう。レオン達の型抜きと、ローズのナッツ入りが綺麗に皿に並び、最後に果物が添えられた。見た目はマンゴーに似ているけれど、匂いが柑橘系なのね。
「こりぇ、ろじぃ! にぃに!」
指さして説明するのはマナー違反だけれど、ヘンリック様は「そうか、よくできたな」と褒めた。作法より子供の気持ちを優先してくれたのが嬉しい。微笑ましい気持ちで見守り、目を輝かせるレオンに声をかけた。
「レオン、上手に焼けているわ。とても美味しそう」
「らるふと、こうやったの」
ご機嫌で説明するから、余さず聞いた。型抜きの仕草や捏ねた時のことなど。子供の話は独創的で楽しいわ。時々レオンが言葉に詰まると、ラルフが付け足してくれる。二人の仲も良くて、笑顔が尽きない。ユリアーナも真剣に聞いて、二つほど質問をした。
答えるレオンが得意げなのが可愛い。ラルフもいつもより発言が多くて、楽しんでいる様子だった。お菓子を一つ頬張るたびに「美味しいわ」と告げる。ユリアーナも一緒になって「私より上手ね」と褒めたので、レオンが嬉しそうに「きゃぁ」と歓声をあげた。
その癖、出会った頃と同じね。懐かしく思いながらお菓子を平らげ、絨毯の部屋へ移動した。お菓子繋がりで、組み立てられるお菓子の家キットの相談をしてみる。
「なるほど、積み木をお菓子で再現するのか」
「そんな感じよ。食べ物で遊ぶのは教育によくないけれど、自分達で作って食べる経験も大切だと思うの」
前世で言う食育みたいな感じ。できれば将来的には規模を大きくして、稲刈りならぬ麦刈りも体験させたいわ。春の麦蒔きのお手伝いも素敵よ。話を拡大させて伝えると、目を丸くしたヘンリック様が黙り込んだ。
さすがに貴族に農作業はまずい?
「すごい考えだ。まったく考えたこともなかったが、自分が知らない世界をそのままにせず、体験しておくのは素晴らしい」
手放しで褒められた。素晴らしいを連呼するヘンリック様の話に、ベルントが付け加えた。貴族の子は何でも「与えられて当たり前」と考える。実際、両親もそのように育てられたので、おかしいと思わない。だが、領民を思う領主を育てるには、彼らの苦労の一端を知るべきだ。
そういった考え方はあるみたい。ただ実践する方法がなくて、そのまま繰り越されてきた。国として貴族全員に体験の機会を設ければ、民との距離も縮まるだろう、と。
そんな大それた話ではないのよ? 楽しい遊びの一環として、学びになれば一石二鳥くらいの意見なの。慌てて伝えたけれど、すごく興奮して話が聞こえていないみたい。ヘンリック様が気に入ったのなら、いいかしらね。




