673.春の暖かさがすぐそこまで
カーテシーの動きが気に入ったようで、ローズは夢中になって練習し始めた。こういうときは絨毯のお部屋が役立つわ。転がる対策として、後ろにクッションを置いた。そこへ尻餅をつくのが楽しくなったようで、練習にならない。
まだ覚えなくても構わないので放っておいたら、なぜかユリアーナに火が付いた。教えようと夢中になり、何度も「こうよ」とやって見せる。覚えたらそれはそれで素晴らしいし、覚えなかったとしてもお姉ちゃんに遊んでもらった記憶になるでしょう。
微笑んで見守る先で、ローズがふわっとスカートを摘まんだ。しゃがむ動きと重なって、すごく優雅に見えるわ!
「すごいわ、ローズ。お姫様だったわよ」
手放しで褒められ、嬉しくなったローズが立ったり座ったり。ちょっとズレている気がしたけれど、にこにこと頷いて褒めた。そこへレオンが飛び込み、追いかけたラルフが顔を覗かせてからノックする。
ノックを忘れたと気づいて、レオンもドアまで戻った。こちらに背を向けたまま、ラルフの顔を見ながらノックする。小さな子の仕草って、どうしてこう可愛いのかしらね。くすくすと笑った私と違い、ユリアーナは口を窄めるようにして笑いを堪える。
そうね、笑ったら可哀想かも。酸っぱいものを口にしたような顔のユリアーナを見て、ローズも真似をする。でも顔全体がくしゃっとした。口と目と……全部きゅっと寄せた顔になったローズに、レオンがこてりと首を傾げる。
「ラルフもレオンも、どうぞ」
入室の許可を与えると、レオンが走ってきた。さきほど飛び込んだ時に靴を脱いだから、そのまま真っすぐ! 受け止めながら顔をあげ、靴を揃えるラルフに手を広げた。
「え? あの……」
「ユーリア様ではないけれど、私もこの家のお母様よ。ほら!」
促せば、ラルフも走ってきた。手前で減速してぼふっと腕の中に収まる。二人の頭を撫でたら、ローズはユリアーナの膝に座っていた。いつの間に……こういうちゃっかりしているところ、誰かに似ているわ。
ふっとユリアンの顔が浮かび、口元が緩んだ。
「どうちたの?」
噛んだレオンの言葉に微笑みを深めながら、「ユリアンを思い出したのよ」と教えた。
「ユン! 来る?」
目を輝かせるレオンに「どうかしら」と誤魔化す。屋敷にユリアンを呼んで演奏を頼んでもいいかも。
そろそろ春で雪解けの時期だわ。たしか、ケンプフェルト公爵領は春にもお祭りがあった。そのお祭りに招待しましょう。秋の収穫祭と対になった感じの、何て名称だったかしら? まったく思い出せないわ。稲作ではないから、田植えとも違うし……。
考えた後、お菓子が焼けた知らせを持ってきたイルゼに尋ねた。
「春祭りでございますね」
そのままの名称だったわ。ちょっと恥ずかしい。




