645.遠慮が抜けていい感じだわ
レオンからもらえば、ローズは大人しく受け取る。イヤイヤも発動しなかった。ヘンリック様は不服そう。自分の時は嫌だと拒まれた野菜も、レオンが食べさせれば口の中に消えていく。そんなものよと慰めて、私の手からサラダを食べさせた。もぐもぐと咀嚼するヘンリック様も気分が上向いたみたい。
「レオン、ローズ、ラルフも」
食べ終えたヘンリック様の声に、三人が走って来る。受け止めて敷物に転がした。きゃっきゃとはしゃいだ声を上げる子供達は、少し乱暴なくらいが楽しいのね。飛びついては転がしてもらう。ヘンリック様も加減しているから、相手によって転がし方が違った。
後から追いかけてきた侍従が、こそっとリリーに耳打ちする。それを私に伝えてくれた。どうやらオイゲンがお見舞いに来たみたい。予定より早かったので、フランクが応対して待たせていると。
ユリアーナの準備がまだなのでしょうね。最後に「帰宅に合わせてご連絡します」と付け加える。気が利くのはイルゼかしら? それともフランク? どちらにしても助かるわ。
「何かあったのか?」
声に出して尋ねるヘンリック様へ、にっこり笑った。子供達にはまだ内緒にしたほうがいいと思うわ。大喜びで走っていったら困るもの。
「レオン、ローズ。あっちの花を摘もうよ」
ランドルフが声を掛け、二人を連れていく。騎士が同行したから危険はないでしょう。見送って、戻ってきたヘンリック様に目を丸くした。あちこちに草や花びらを付けて……転げ回ったせいかしらね。一つずつ指先で払いながら、聞いた話を伝えた。
「なるほど……ならば、次の伝令で戻れるように準備しよう」
飲食物は侍従が片付ける。敷物もあとで回収可能だった。準備するのは私達だけね。レオンとランドルフはいいけれど、ローズがイヤイヤを発動するかも。
花を摘む子供達は、左手に掴んだ花を揺らして走って来る。子供の突進って、全力なのよ。覚悟して受け止め、それでも後ろに尻もちをついた。レオンは私の胸に飛び込み、いつも遠慮がちだったランドルフが続く。手前で止まらなかったランドルフの髪を、ぐしゃぐしゃになるまで撫でた。
だって嬉しかったんですもの。
ローズはヘンリック様に花を渡した。飛びつかなかったの? と見ていたら、すでに飛びついた後だったみたい。服に草の汁がついている。あれはローズの手が抱き着いた証拠だわ。出かけないからいいけれど、屋敷に帰ったらベルントに着替えを促されそう。
「レオンのくれたお花は部屋に飾りましょうか。ラルフも綺麗な花束だわ。食堂にどう?」
「ろじぃのは?」
尋ねるレオンに微笑んで、ヘンリック様のほうを手で示した。ローズが持ってきた花は千切られて茎が短い。
「花を切って、ガラスの器に浮かべたら綺麗だと思うの。帰って温室で作ってみる?」
提案に「はい!」と二人揃っていい返事。帰る準備を始めたら、ちょうど二度目の連絡が入った。まだかかりそう? やっぱり温室で待つことにしましょうね。




