642.休日のお昼は新作パンで
午後にオイゲンが見舞いに来る。先触れの手紙を受け取り「あらまぁ」と声が零れた。訪問の許可が出たらすぐに飛んでくるところが、彼らしいわ。
「午後からオイゲンが来ます」
「ああ、婚約者の見舞いだな」
ヘンリック様が頷く。芝生の上に絨毯を敷いて、私達は円を描くように座っていた。ローズはヘンリック様の膝の上、私とヘンリック様の間にレオン、ランドルフはレオンの向かい側。珍しく隣り合わせで座らなかった二人は、中央に置かれたパンに夢中だった。
パンの中にチーズを入れてもらったの。他にも砕いたナッツを入れたパンもある。パン自体に味をつける、という概念がなかった料理長に教えたら、大興奮で大量に作っていた。使用人達の分も足りそうね。溶けるチーズもいいけれど、プロセスチーズのように硬いチーズをブロックで練り込んでいる。
「ほぃひぃ」
口いっぱいに頬張って話してはダメなのよ。その注意は口の中で消えた。だって、本当に嬉しそうな顔で食べるから。何も言えなくなってしまう。ヘンリック様は二つに割ったパンを見つめて、不思議そうにしていた。
「これはなんだ?」
「干し葡萄です」
黒いぶつぶつが入っていたら、不審がるのも当然ね。切って具を挟んだサンドウィッチは食べたことがあっても、練り込んだパンは初めての経験よ。そっと口に入れて目を開いた。
「美味しい」
「それは良かったわ」
次のマルレーネ様とのお茶会に、パンを持参しようかしら? 以前に挟んだパンを食べて頂いたし、これなら手が汚れず具が落ちる心配もない。まだ幼いルイーゼ様も食べやすいと思うわ。
「これは君が?」
「ええ。リアと呼んで下さらないの?」
「……まだ照れる」
正直に返され、私のほうが赤くなった。ひ……日焼けかしらね。レオンはナッツのパンが気に入ったようで、二つ目に手を伸ばす。直前で止まった。
「らるふ、半分こして」
「わかった」
チーズのパンを半分にして、二人で分ける。でもまだ大きいので、私が手を伸ばしてさらに割った。大人の手のひらほどのパンは、小さくなる。半分が私、残り半分をレオンとランドルフが分け合うの。これなら別の味も楽しめるわ。
「お父様、あーん」
レーズンパンを食べさせようとして、ローズにイヤイヤされたヘンリック様に、レオンが口を開けた。千切ったパンが口に入っていく。それを見るなり、ローズが「あたちも!」と叫んだ。レーズンは嫌だったんじゃないの? ふふっ、お兄ちゃんと一緒がいいのね。




