621.イヤイヤ期の説明をそれぞれに
レオンとランドルフを連れて、絨毯の部屋で休憩する。ヘンリック様はエルヴィンを執務室へ招いたみたい。フランクが同行したので安心ね。イルゼはリリーを連れて、絨毯の部屋についてきてくれた。
「ろじぃ、いや?」
「そうね。何もかも嫌なの」
食べているお皿にサラダが盛られたのが嫌。でも自分だけもらえないとそれも嫌。ヘンリック様が野菜をどうしても、嫌だったのよ。説明にランドルフは首を傾げた。
「なぜでしょう」
「大人になるとそう思うわね。たぶん……ラルフも同じようになった時期があるわよ? ユーリア様がご存じかもしれないわ」
「俺も?」
そんなことないと思う。ランドルフは顔にそう書いて、うーんと唸る。レオンはまだしゃっくりが止まらなくて、指を咥えて唇を尖らせていた。
「レオンが何かしてあげた時、お礼を言われると嬉しいでしょう?」
「うん」
「もしローズが「嫌」だと言ったら、嫌いになる?」
たとえ話に、レオンは考え込んだ。即答しないところが偉いわ。簡単に大丈夫と言ったら噓になるものね。すごく悩んでから「なんない」と口にした。上に「たぶん」とか後ろに「だと思う」とか、付けたい感じね。でも言葉が豊かでないから、自分が伝えたいことだけ口にした。
レオンを膝に乗せて、黒髪を撫でる。ランドルフも隣に座るよう伝えて、彼の頬にキスをした。どちらもイヤイヤ期を初めて見ると思うのよ。
「ローズが成長するために必要な時期なの。レオンやラルフと同じように、自分であれこれやりたいのよ。でも上手に出来ない。きちんと伝えたいのに、言葉がわからないの。だからイライラして、怒ってしまう」
未熟で子供なの。二人がローズを嫌わないように、かみ砕いて説明する。理解できなければ、もっと簡単な言葉に置き換えよう。貴族の子供は一緒に育てないと聞いた。食事など同席することもあるわ。年が近ければ作法などを一緒に習うこともあるでしょう。
それでも、一緒にいる時間のほうが少ないはずよ。乳母や侍女、侍従が常に一緒にいるから、面倒な時期は任せて育てるわ。互いの嫌な部分もいいところも知らずに育つのが普通だった。
シュミット伯爵家の場合、まず屋敷が狭かったから嫌でも顔を合わせる。使用人が雇えなくて手が足りないから、姉兄で双子の面倒を見た。この辺がすでに違うのよ。嫌がっても騒いでも、放り出せる環境になかった。
エルヴィンはその意味で、子育て技術を習得した希少な貴族になりそう。将来、我が子が泣き喚いても「ああ、イヤイヤ期か」と納得するわ。この子達もそうなってくれたらいい。未来の奥様が苦労せずに済むし、子供達も安定すると思うの。
「アイの、しゃー! おなじ!」
レオンの発言に「きちんと理解できていて偉いわ」と褒めた。そうね、猫が突然怒る行動にそっくりだわ。ふふっ、素敵なたとえが嬉しい。レオンはしゃっくりで揺れる体で、私に寄り掛かった。




