618.あとで説明しないと
予想通り、お父様は二日酔いだった。顔色が青を通り越して白いわ。それに表情も苦しそう。
「お父様、朝食は無理でしょうから……その、休んでいらしたら?」
「……っ、悪いが……そう、させて……もらう」
よろよろと立ち上がった姿に、不安を感じたフランクの指示で侍従が二人付く。これから途中で倒れたり具合が悪くても、対応が間に合うわね。
きょとんとした顔のレオンは「じぃじ?」と呟いた。見送っても気になるようで、扉のほうを見ている。
「レオン、お父様……いえ、じぃじは具合が悪いの。今日はたぶん寝ているわ」
「……うん」
わかったけれど、不満そう。午後のお昼寝を終えたら、一緒にお見舞いに行こうと誘った。ランドルフが大皿から卵やハムを取り分け、レオンの前に置く。お礼を言って、レオンはパンに噛みついた。
ヘンリック様がサラダをレオンの皿に足す。一緒にランドルフにも。当たり前に振舞えるようになったのが凄いわ。以前の彼なら、まずレオンに取り分けなんてしない。他家のランドルフも同じはずよ。考える前に動くようになったヘンリック様が嬉しい。
でも、今回は裏目に出そう。
二人にサラダを取り分けたヘンリック様は、これまた当たり前とばかりにローズのお皿に……! イヤイヤ期に突入したと思われるローズは、一瞬、動きを止めた。それから勢いよくお皿を跳ね飛ばす。
「いやぁあ! やぁあああ」
「ローズ?」
無作法を叱るより、怪訝そうな声でヘンリック様が眉尻を下げる。何が気に入らなかったのか、理解できないのだと思うわ。
「ヘンリック様、ローズは任せて」
「あ、ああ……」
自分が悪かったのかと思いながらも、理由がわからないのでしょう? 謝る必要があるか判断できず、曖昧に返事をした。それでいいわ。あとで説明するから、今は我慢して頂戴ね。立ち上がってローズの前に行き、弾いた皿を拾う。慌てた侍女が手を出そうとするのを、私が止めた。
無言で拾っていく作業を見るローズは、驚いた顔で静かに見ている。レオンの様子を窺えば、不安そうに周囲を見回していた。ランドルフは固まって動かない。意外と想定外のトラブルに弱いのかも。
観察しながら全部拾った。お皿の上はぐちゃぐちゃで、ローズの前に静かに置いた。もちろん食べさせる気はないわ。
「ローズ、まだ食べる? それとも違うことをしたい?」
「たべ、う」
しっかりと意思表示をした。大丈夫そうね、この程度なら軽いほうだわ。さらに重症化したら、改めて対策を考えましょう。確か、否定せず怒らず、やりたいことを尋ねる……でよかったはず。保育士だった頃の記憶を辿りながら、私はローズの隣に座った。
お父様の椅子だったのだけれど、ちょうどいいわ。
「食べたいものを言ってね。サラダは嫌だったのね? ハム、卵、スープ、パン」
「あん!」
パンを一つ摘まむと、不満そう。隣のパンも同じなのだけれど、そちらを手元に引き寄せた。パンだけに齧りつく娘を食い入るように見つめるヘンリック様の顔に、苦笑いが浮かぶ。あとの説明が大変そうだわ。




