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【書籍重版】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します【コミカライズ進行中】  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
第五章

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616.男親の複雑な本音 ***SIDEカール

 娘の夫であるケンプフェルト公爵と向かい合う。重厚な印象を与える黒檀の机が、執務室の中央に据えられていた。しかし、ヘンリック殿はそちらではなく応接ソファーへ案内する。


「突然、すまな……すみません」


 済まないと言いかけて、言葉を直した彼に驚く。以前なら平然と言い放っただろうに。そう思いながら「普段の言葉遣いで」と告げた。爵位が違うのだ。娘の夫であろうと尊重するのが、伯爵家の当主である私の立場だった。


「では、その……ユリアーナのことだが」


 義妹として預かってから、彼は「ユリアーナ殿」と呼ぶことをやめた。家族らしくなったと好ましく思う。アマーリアが口を出したのだろうか。


「父上殿はどうお考えか?」


「どう、とは?」


 問われた意味が分からずに返してしまう。察しが良くないのは、昔からだ。よく妻にも叱られた。不機嫌にさせるかと懸念したが、ヘンリック殿は平然としていた。器の大きさが違う、とはこういうことも含まれるのだろうな。


「婚約者の実家で安全が保障されていても、娘を預けるのは……嫌だろう?」


 いろいろ言葉を選んだ結果なのに、真っすぐ届く。会話の本質を誤らない人らしい。冷静にそう考える頭の半分が、違うことに逸れていく。


「ユリアーナはいずれ嫁ぐ身です。婚家となるティール侯爵家が大切にしてくださるなら、提案を拒む気はありません。私がしてあげられなかったことも、アマーリアや婚約者のオイゲン殿がしてくれる。ただ……一つだけ」


 一つだけ不満があった。いや、不満と表現するのも違うか。躊躇いながらも、本音を吐き出した。きっと、ヘンリック殿が聞きたいのは本音だろうから。彼も娘を持って、やっと実感したのだ。愛する娘が嫁いだ先での扱い、あれこれ噂されることへの不安を……。


 できれば手元に置いて、結婚などせずにいてくれたら。ずっと一緒に暮らして離れずにいられたら。それは娘を愛する父親なら、必ず通る道だった。ここを通り過ぎれば、あの子が幸せならばいいと手を離してやれるのに。


「この手で今の幸せを与えてやりたかったと、そう思います」


「父上殿は十分に……」


「いえ、わかっております」


 子供の幸せを願うのに、他者から与えられた事実に揺れる。悔しいのも、悲しいのも違う。ただ与えられなかった事実が突き刺さるのだ。


「ヘンリック殿は、ローザリンデ嬢を大切になさってください。将来、嫁に出すときに後悔しないよう、精いっぱいの愛情を注がれるとよいでしょうな」


「っ、はい」


 複雑そうな感情を呑み込み、ヘンリック殿は頷いた。そこから酒瓶を開けて、中身を空けて。次の瓶をまた開けて……飲み続けた。アマーリアが決めたことに不満はない。ティール侯爵家の気遣いに感謝もしている。


 ほんの少し、足りない自分が切なく思えるだけ。ただそれだけなのだから。喉を焼く強い酒を煽り、柔らかなソファーに崩れ落ちた。

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― 新着の感想 ―
ヤケ酒?明日は二日酔いになっちゃいますよ。でも、良いお父さんです!ユリアーナさんは、幸せいっぱいですよ!
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