611.ユリアーナのお願い
お絵描き部屋に関しては、一時保留とした。だって作っている間に、ローズがお絵描きに飽きるかもしれないのよ。レオンは一つのことにじっくり取り組む子だけれど、ローズはすぐに飽きる。しばらく夢中になって集中したあと、突然やめてしまうの。一度やめたら、なかなか戻ってこないわ。
すでに粘土遊びで経験したので、その話をしてヘンリック様に待ってもらった。すでに使えそうな部屋を選定していたと聞いて、驚いたわ。行動が早いところは評価できるけれど、子供のために暴走する部分は反省してもらわないと。
「たんれん、する!」
騎士達が訓練する広場の脇で、レオンとランドルフは汗を流すのが日課になっていた。午後のお昼寝前に体を動かすの。送り出そうとしたら、エルヴィンがついて行った。運動が嫌いなあの子が、どうしたのかしら?
「お父様、理由をご存じ?」
「……領地でな、仲良くなった子がいるんだが」
「ええ」
「その子が強い男が好きと言ったらしいぞ」
男の子って短絡的ね。強いの意味が、どこにかかるかわからないのに。数字に強いや音楽に強い、の可能性もあるのよ? まあ、鍛えて体力をつけるのはいいことだわ。止める理由はないので、たくさん運動してくればいい。
車椅子に乗って、窓際へ移動した。今日は日差しが柔らかくて、窓越しの日向ぼっこが気持ちいいの。用意してもらった椅子とテーブルを使い、ゆっくりと寛いだ。レオン達のお昼寝も、窓際がいいかしら?
「お姉様、失礼するわ。お父様が来ている?」
入ってきたユリアーナは、室内用のワンピースではない。どうやら出かけるか、誰かが訪ねてくるようね。きちんとした裾の長い服だった。
「ええ、こちらよ」
ほっとした顔の彼女は、椅子に座るお父様の前で会釈した。侍従が運んだ椅子にお礼を言って腰掛ける。礼儀作法はきちんと学んでいるようね。
「お父様、オイゲンが来るから会って!」
「ん? 構わないよ。いつだい?」
「これからよ」
あら、もう呼んだのね。先日、何か話があると言っていたわ。手紙を書く予定だったけれど、来ているなら丁度いいと考えたみたい。お父様が私に「何の話だ?」と目で尋ねる。残念ながら私も知らないの。首を横に振ってわからないと示し、二人でユリアーナを見つめた。
「何かあったの?」
「少し先の話よ。ティール侯爵家の別荘に行きたいの。オイゲンが、夏の間は別荘に行くと聞いたのよね。同行するにはご家族の許可が必要よ、とハンナ様に言われて」
中途半端に言葉を切って、へへっと笑う。この顔はガキ大将だったユリアンに似ているわ。悪いことをして叱られたとき、誤魔化す表情にそっくり。
お父様はどう答えるか、想像がついちゃったわ。




