609.立派な人誑しがいるわ
「レオン、お母様を取られてしまうよ」
なぜかランドルフがレオンを焚きつけた。
「やだぁ!!」
泣きながら走って来るレオンが、ローズを追い抜く。当然よね、年齢が違うもの。抜かされたローズを、ランドルフが捕まえた。え? どうするの!?
「俺と遊ぼうか、ローズ」
まるで兄のような口調で語りかける。きょとんとしたローズが頷いた。私に向かっていた目的を忘れたように、ランドルフと画用紙の場所まで戻る。新しく画用紙を二枚広げて絵を描き始めた。
その間に私までたどり着いたレオンが「ぼくの……え」と訴える。ベッドの上で転がる私は、レオンの絵を受け取る。色鮮やかに描かれた風景には、棒人間がたくさん。私、レオン、ローズ、ランドルフ……これはリリー? それからフランクも。
絵の端に赤い線が一本、弧を描く形で目立つ。これがローズの線ね?
「凄く良く描けたわね、レオン。上手よ」
「これぇ」
洟を啜りながら指で赤い線を示す。邪魔だと言いたいのかしら? 先ほどのランドルフの見事な仲裁を真似てみましょう。手招きしてレオンにベッドへ座ってもらう。隣に腰掛けたレオンがぴたりと私に抱き着いた。肩を抱き寄せ、絵を目の前に置く。
「この赤をお花にしたらどうかしら? きっとレオンなら出来るわ。リボンでもいいわね」
提案にレオンは固まった。揺らす程度にぽんぽんと背中を叩き、顔を寄せた。寝てばかりだから緩い三つ編みにした金髪が、肩を滑る。レオンは三つ編みをきゅっと握った。
「レオンの上手な絵に、ローズのお手伝い。ローズは上手に描けないから、お手本を描いてほしいわ」
「お、てほん……?」
「ええ、そうよ。レオンが赤を綺麗に使ったら、私は嬉しいの」
「やる!」
心得たようにリリーがクレヨンを運んでくる。ついでに、絵の下へタオルを敷かれた。上掛けに描いてしまったら大変だものね。几帳面な一面があるレオンは、はみ出さないよう注意しながら描き足していく。色の違うクレヨンも使いながら、虹のような線を増やした。
首を伸ばして様子を窺えば、ローズはご機嫌で線を大量生産していた。紙の上はぐるぐるが量産され、その上へランドルフが花を付け足す。
「やぁ! めぇ!」
やだ、ダメと言いたいの? なんだか子羊の鳴き声みたいで可愛かったわ。
「ダメなのか? でもローズもやっただろ」
にっこり笑ったランドルフは、さらに花を足す。手を振ってダメと訴えるローズが絵の上へ被さった。今度はあちらが喧嘩になるかも! そう思ったけれど、子供同士って不思議ね。
「ローズが花みたいだ」
ランドルフの一言で、ローズの機嫌が直った。
「かぁい?」
「すごく」
どうしましょう、立派な人誑しがいるわ。うちの娘なんてイチコロじゃないの……。




