604.どの猫が好き?
ユリアーナは、リースフェルト公爵家のヴェンデルガルト嬢と約束があったみたい。このところ、外出ばかりで心配だわ。まだダンスもお作法も、先生方に習っている途中なのよ。あとで話を聞いてみましょうね。親の目線で心配して口出ししたくなるけれど、あの子にも理由がはあるはず。
親が一方的に「外出禁止」なんて言い渡したら、結婚前の私だって反発するわ。幸い、お父様はそういった行動に出ることはなかったけれど……。
「お父様がいらしたのね」
「ああ、猫の部屋に向かったぞ。後からエルヴィンも来るそうだ」
呼び方に迷っていたヘンリック様も、弟妹を呼び捨てにすることに慣れた。家族として馴染んだお陰ね。お父様にも、ぎこちなく「義父上殿」と話しかける姿が好感持てるわ。
「猫……?」
この屋敷にいた頃も構っていたけれど、そんなに猫が好きだったかしら? 娘の私や孫のレオンを構わずに? そう思った途端、さきほどのローズの反応を思い出した。なるほど……気を逸らすために猫に会いに行く提案をしたのね。私は扉越しだから、聞こえなかったのよ。
「ローズは猫が好きだもの」
理由に気づいたと笑う私に、レオンがつんつんと袖を引いた。
「あのね、ぼくも! アイ好き」
「そうね、アイもレオンを好きだと思うわ。そういえば、ラルフはお気に入りの猫がいるの?」
ティール侯爵家のオイゲンは、犬を飼っていたと話していた。でも貴族家は犬猫を飼う習慣がないと聞く。毛や臭いの問題があるから。特に猫は高いところに乗って悪戯するし。そこが可愛いのだけれど、手間を考えると飼わない選択肢も理解できた。
牛の乳や鳥の卵みたいに、副産物が得られないから。私にしたらペットを飼うのは贅沢なことだから、裕福な貴族なら飼うと思っていたのよ。でも逆で、平民のほうが犬猫を飼う家庭が多い。番犬だったり、ネズミ対策だったり。利があるから飼育する感じね。
「俺は……白い子が好きです」
遠慮がちに言われて「しろ!」とレオンが名前を口にする。黒髪を撫でながら、ラルフが頷く。照れくさくて白い子なんて呼んだのかも。
「そう。私は……サビーネが好きよ。他の子もいいけれど、模様が独特で好きなの」
サビ猫は人懐こいし、大人しい子が多い気がする。まあ、猫はどの子も可愛いけれど。ずるいくらい可愛いわよね。
「ヘンリック様は?」
椅子でちらちらとこちらへ視線を向ける夫に尋ねれば、ほっとした顔で「ミアだな」と答えた。模様の境目がくっきりして、鮮やかなのがいいと付け加える。こういう些細な違いや好みを知るのは嬉しいわ。
「皆、大好きな子がいてよかったわ」
穏やかに締め括ったら、廊下から叫び声が聞こえた。
「猫が脱走した!!」
あらまあ……またシロかしら? 活発な白猫を思い浮かべ、くすくすと笑った。
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