600.恐ろしい伝令 ***SIDEヘンリック
フランクの出した伝令が届き、俺は驚いて固まった。運んだベルントが怪訝そうな顔で内容を問うので、ぽつりと端的に呟く。
「アマーリアが……倒れた……」
短く端折った一言に、執務室の音が消える。目を見開いた者、手にした書類が落ちるのも気づかぬ者、立ち上がる途中で動きを止めた者……文官達の動きが一斉に再開した。
「っ、お帰りください」
「こちらは何とでもなります!」
「奥様、最優先ですぞ」
ティール侯爵も加わって、全員が俺を帰そうとする。固まった俺もようやく動けるようになり、最初の衝撃を受け流すように深く息を吐いた。顔を上げ、部下達に頷く。
「悪いが任せる。ベルント!」
「……先ほど馬車の手配に向かわれました」
文官の一人がへにゃりと眉尻を下げて、困ったような顔で告げる。最低限必要な身の回りの物をカバンに放り込み、机の上の文房具を引き出しに投げた。多少変な音がしたが……片付けは明日以降、いつでもできる。
「失礼する!」
「「「はい!!」」」
返事を背中に受けて廊下に出た。王宮で働く者達が、驚いた顔で俺を見るのは……それだけ険しい顔をしているからか? そう思ったが、足音も荒く自らカバンを持つ公爵の姿に驚いただけだろう。普段の優雅さは欠片もない。速足を通り越して走りながら、途中でベルントと合流した。
「馬車ではなく馬をご用意しました」
「でかした! お前はカバンと一緒に後から来い」
持っていたカバンを渡し、馬車で戻るよう伝えた。鞍のついた馬に飛び乗り、蹄の音を響かせて走る。王宮の門を出るまでは歩かせるのがマナーだが、これは緊急事態だ。叱るなら後にしてほしい。慌てた様子で二人の騎士が追いかけた。護衛で用意されたのだろう。
アマーリア、無事でいてくれ。伝令が運ぶ手紙は細長く短い。端的に内容を示すため、言葉は最低限だった。奥様が倒れました、その一言に息が止まるかと思った。
今朝はつらそうだったが、見送って……あの後に何があったのか。屋敷や子供達に何かあれば、そう書かれていただろう。ならば、アマーリアだけが? 体調不良なら無理をさせたことを詫びる。だが病であったなら……。我慢強い妻は言わずにいたのかも?
突然、もう一人欲しいと言い出したのも……そのせいでは? 悪い想像だけが膨らんでいき、どきどきと煩い心臓の音が速くなる。俺の手足を差し出してもいいから、アマーリアを奪わないでくれ。普段は手を合わせることもない神という存在に、無心で祈りを捧げた。
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今年も大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたしますペコリ(o_ _)o)) よいお年をお迎えくださいませ




