599.腰が抜けたみたいよ?
幸い、猫の脱出は阻まれた。お転婆シロが駆けだそうとしたところを、ランドルフが捉える。お腹を上にして撫でられる間に、ローズが入室した形だった。追いかけた私がほっとして、二重扉の前で立ち止まる。嘘みたいなんだけど……腰が痛くて変な感じ。
ずるずると座って、心配そうなレオンに笑顔で首を横に振る。安心したのか、またアイのところへ向かった。ランドルフが小首を傾げて尋ねる仕草を見せるも、やっぱり笑顔で大丈夫と伝える。さて困ったわ。立ち上がる時に誰かの手を借りないと無理だけれど、借りたら子供達が気にする。
上手に隠して離れる方法を考えなくちゃ。後ろのリリーがさっと膝をつき、小声で確認してきた。
「奥様、痛むのですか?」
「ええ、腰が……たぶん、立てないと思うの」
激痛で動けないと言うより、こう……痺れたような? とも違うかしら? 力が入らないのよね。もしかして、腰が抜けるってこの状態かも! 驚きと発見以上に、子供達にバレずに部屋に戻る方法を模索してしまう。もし泣かれたら……ヘンリック様に禁欲をお願いしましょう。
「奥様を抱き上げるわけにもいきませんね」
うーんと考えるリリーは、以前に使用した車椅子を提案してきた。廊下なら大丈夫だけれど、ここから廊下までどうやって移動するか。
「あらあら、坊ちゃまを叱る必要がありそうです。リリー、大きめの毛布を一枚。それと力の強い侍従の手伝いがいります」
呼ばれたイルゼが用意させた毛布を敷き、その上へずって移動する。手をついて、周囲がこっそり支えながら毛布の上に乗った。これを一気に廊下へ引き出す作戦らしい。多少痛いかもしれないが、子供達にバレて心配させるよりマシだわ。
すでに車椅子は廊下にスタンバイしている。猫部屋の二重扉の内側、ガラスにしなければよかったわ。いえ、猫に触れずに中を見られるように作ったし、部屋に入るときに猫の位置を確認するのにも役立っている。でも……カーテンはつけてもいいかもしれないわ。
もうないと思うけれど、こういった場面で視線を遮るものがないのよ。
「奥様、お覚悟は……」
「いいわ、やって頂戴!」
毛布を掴んで姿勢を低く……しようとして、動きを止めた。やだ、角度が変わると痛い。諦めて毛布を掴むだけにした。子供達の様子を見ながらイルゼが右手を上げる。ランドルフの手から逃げたシロが、サビーネのいるキャットタワーへ走った。ミアが追いかける。
子供達の視線が猫に集中した瞬間、イルゼの手が振り下ろされた。シュン、と魔法のように移動する。意外なことに、痛くなかったわ。テーブルクロス引きみたいに、私だけうっかり残されたら笑うところだったけれど。
無事に廊下に出た私は、フランクやリリーの手を借りて車椅子に座った。運ばれながら、理由を考える。レオン達になんて言い訳しようかしらね。




