579.イヤイヤ期ではないみたい
「レオンが火傷……痛くなるから、後ろから抱っこはダメだよ。わかる? ローズ」
兄弟姉妹として育てばいいと思い、ランドルフにも呼び捨てを許可している。同じ公爵家同士なので、外で聞かれても問題にならないからよ。ユリアーナはその辺きちんとしていて、外では敬称付きで呼んでいるわ。今日はオイゲンと約束があるから置いてきたけれど。
「やっ!」
「じゃあ、レオンが痛くて泣いてもいいのかな?」
「やああ!」
両方とも嫌なのは、やっぱりイヤイヤ期到来? レオンはなかったし、少し早い気もするけれど……おかしくはないのよね。個人差があるうえ、女の子のほうが成長は早いと聞くし。口を挟もうか迷っていると、ローズが洟を啜った。
ずず……っ、その音ではっとする。
「ヘンリック様、ローズをこちらへ」
「あ、ああ」
驚いた顔をしたものの、素直に渡してくれる。膝立ちで受け取り、やっぱりと項垂れた。
「今日はこの後すぐ帰りましょう。ローズは風邪を引いているわ」
馬車に酔ったのも、聞き分けがないのも……興奮状態だったのも全部。体調不良が原因ね。風邪も含めて、うつる病だった場合を考えれば……ルイーゼ様に会わせないほうがいいわ。きょとんとしているレオンの額に触れ、問題ないと判断する。続いてランドルフも確かめ、やはり風邪の兆候はなかった。
「二人は大丈夫そうね」
体温も正常だし咳もしていない。本人達もいつも通りだから……可哀想ね。自分達も具合が悪ければ諦められる。でも何ともないから、遊びたい気持ちが勝るでしょう。
「るぅとあそぶ、だめ?」
「ローズが病気なの、もしうつしたら大変でしょう? ルイーゼ様が具合悪くなってしまうわ」
「……うん」
こういう時、聞き分けがいいのは助かる。でも不満そうにしながらも我慢する顔を見ると……私もつらかった。遊びたかったでしょうし、一緒に話をしたり、手を繋いだり。レオンにとって大切なお友達だもの。ここまで来て会わずに帰るのは、悲しいはず。
何とかならないかしらね。
「アマーリア、こういう時は俺を頼ってくれてもいいぞ。どうだ? レオン、俺がついていこう。ランドルフも一緒だ」
目を丸くしたレオンが「お父様、いっちょ?」と昔の口調で尋ねる。個人的に「おとうちゃま」のほうが聞きたかったわ。そんな感想を抱きながら、ヘンリック様に視線を向ける。ぐずるローズを抱いた私に、笑顔で簡単そうに請け合った。
「任せろ、仕事は問題ない」
「……そうね、任せます。ありがとうございます……頼りになる夫で嬉しいわ」
本人がやる気なのに、私が潰したらダメよね。微笑んでお願いしたら、ヘンリック様がレオンを手招きした。膝の上に座らせ、見ているランドルフも呼ぶ。
「ほら、二人とも一緒だ。子供が遠慮するな」
出会った頃のあなたに、いまのあなたを見せてあげたいわ。立派な父親になったわね、ヘンリック様。




