578.お転婆姫はご機嫌斜めね
客間で寛ぐ。そう、寛げるように部屋が変更されていたの。客間の一つを、我が家専用にしてくれたみたい。マルレーネ様にお礼を伝えておかないといけないわね。絨毯が敷かれて、中央に大きなお盆のような板が置かれていた。縁があるから本当にお盆みたいだわ。
絨毯はふかふかで、柔らかなクリーム色に緑色の葉模様で落ち着く。ヘンリック様の私室だったと聞いて、納得した。それなら、改造によって誰も被害を被らないわ。かつては王宮に住み込んでいたヘンリック様は、窓枠なども直したと得意げに胸を張った。
「素敵ですわ。全体に落ち着いた色合いで……」
壁紙もミントグリーンになっているし、レオンの身長くらいの高さまで花模様の壁紙で切り替えられている。元気になったローズがべたべたと手で触っていた。かつての私なら悲鳴を上げて止めたけれど、好きにさせる。公爵夫人らしい振る舞いよね。
「お料理の説明をお願いできる? レオン」
「うん! これ、僕がしたの。こっちはろじぃ、らるふはこれ」
……可愛いわ、とっても素敵な説明だけれど……指さした品物が全部違うわね。詰めた人と作った人が混在していた。別に問題ないから指摘したりしないわ。レオンに恥をかかせちゃうもの。同じように思ったのか、ランドルフは何も言わなかった。
言われた通りに、一部を並べ替えたくらいかしら? レオンの世話を焼くうち、どんどんランドルフは賢くなった。よく弟妹が出来ると上の子がしっかりすると聞くけれど、それでしょうね。
「そうか、きちんと説明できたな」
レオンの黒髪をヘンリック様が撫でた。ランドルフは私が撫でましょう。と思ったのに、膝をついて身を乗り出したヘンリック様が、ランドルフの頭を撫でている。驚いて固まるランドルフに、ヘンリック様は「よくできたな」と言葉まで足した。
にっこり笑うランドルフの横で、レオンが嬉しそう。人の幸せを一緒に喜べる子は幸せになるわよ。リリーが馬車のほうにいるので、ベルントがお茶を用意した。子供達の分は何度かカップに注ぎなおして温度を下げている。
猫舌になっちゃうけど、火傷よりいいわ。両手でカップを持って飲むレオンに、ローズが駆け寄った。カップが見えていないのか、危険を理解していないのかも!
「危ないわ、ローズ!」
「おっと、お転婆なお姫様だ。こっちにおいで」
「やぁああ!」
お兄ちゃんがいいと騒ぐローズだけど、ヘンリック様に捕獲された。ほっとする。お茶を飲んでいる後ろから抱き着いてはいけない、まだ教えてもローズには理解できそうにないわね。どう教えようかしら?
「ろじぃ、めっ! だよ」
言い聞かせるようにレオンが叱ったら、ローズは暴れるのをやめて固まった。唇を尖らせて、泣きそうな顔で睨んでいる。
「ローズ、食べているときはお兄ちゃんに抱き着いたらダメなのよ」
柔らかく言い直したけれど、尖った唇は戻りそうにないわ。困ったわね。




