54-1.(オイゲン)演奏会の曲目は?
ユリアンが演奏に帰って来る。そう聞いて浮かれたのは、俺だけじゃない。ユリアーナは嬉しそうに「上手になったかチェックするんだから」とはしゃぎ、レオン様も祭りに行きたいと強請った。
「そうね、皆で行きましょう」
公爵夫人の一言で、夏祭り参加が決まった。シュミット伯爵領の夏祭りは、収穫祭より早い時期に行われる。他家の祭りと重ならない時期に行われるので、あちこち周辺から人が集まるらしい。賑やかになったのはここ数年だが、基本的に平民の祭りだった。
「お忍びの服を用意しなくちゃ! 伯爵家の頃に着ていたワンピースならいけると思うの!!」
「奥様、あのワンピースでは足首が見えます」
侍女長イルゼさんにダメ出しされ、公爵夫人は「あら」と困った顔になった。すぐにリリーさん達侍女の提案で、シンプルで地味なワンピースの相談が始まる。レオン様も加わって真剣な顔で頷いているけど、半分も理解してないだろうな。
「では、今日は帰ります」
夕食の時間が近い。一緒に外出したユリアーナを送ってきただけなので、そう申し出たら……食べていけばいいのにと引き留められた。
「ごめんな、ユリアーナ。今日は母上と約束しているから帰るよ。夏祭り参加の許可も貰いたいからね」
「仕方ないわ。侯爵夫人によろしくお伝えして」
見送られて、やや後ろ髪を引かれながら馬車に乗る。自分だけなら馬でもいいと思うが、やはり侯爵家次男の肩書きが邪魔した。それに護衛もいるから、俺一人じゃないし。そうなると馬車のほうが効率的なんだよな。
ティール侯爵家に帰ってすぐ、両親に許可を得た。兄上も一緒に行きたいと言うから、明日手紙を書いて同行させてもらおう。夏祭りが楽しみだ。すでに暑くなり始めた窓の外を見ながら、俺はユリアーナへの思いを日記に綴った。これは絶対に誰にも見せない。机の鍵がかかる引き出しに入れて、鍵を手に風呂へ向かった。
夏祭りが近づく中、皆で楽器の練習を始めた。この際だから、夏祭りの後に一緒の演奏会を行おうと提案されたのだ。ユリアーナは久しぶりに手にしたフルートと格闘中、レオン様は勢いよくシンバルを打ち鳴らす。公爵夫人も三日月ハープを手に、ぎこちなく音を辿った。
ケンプフェルト公爵家では、使用人に楽器を自由に使わせている。休みの日に練習する侍女や侍従も多く、家令や執事も貴族家出身のため音楽の素地があった。バイオリンを器用に鳴らす家令のフランクさん、侍女長のイルゼさんもフルートより小さい笛を手に音楽を楽しむ。
木琴を鳴らしながら、俺はふと気づいた。演奏会はいいが、曲目が決まってるのか? 口にして尋ねたら、大慌てで曲目の選考が始まった。まさか本当に決まってなかったとは! この家らしい、かな?




