50-2.(ヴェンデルガルト)楽しいひと時
お出かけは、特にお忍びではない。だから動きやすくて可愛い服を選んだ。まだ成人していないから、スカートは足首が見えるギリギリでも問題ない。裾にフリルを縫い付けているため、足首はぎりぎり隠れるわ。これなら歩いても踏む心配は要らない。
ふわっふわに膨らませたドレスは好きだけど、街では邪魔なだけ。膨らんでいると椅子に座るときも、お店で商品に手を伸ばすときも引っかかるの。すとんと落ちる形にしたから、胸の下で切り替えて足が長く見えるワンピースよ。
ショールを羽織って、鏡の前でくるり。可愛いと褒める侍女達に頷き、金茶の髪は髪飾りでハーフアップに。左の肩から流す形で、巻いた髪が揺れる。うん、後はお迎えを待つだけね。
お父様とお母様に外出を相談したら、各家から一人ずつ護衛の騎士を出す形を提案された。一つの家が出してもいいけれど、それだと守る順番がある。騎士は主家の令嬢や令息を優先するものだから。すぐに追加の手紙を出して、それぞれの家に確認を取った。
うちからは古参の騎士が一人、彼はすでに玄関ホールで待っていた。婚約者同士で一台ずつ馬車を使う。四人一緒に移動したら楽しいけれど、緊急時を考えたら馬車は分けるべき。これはお父様の提案だった。馬がケガをしたり、車輪が壊れたり。予想外の事態に備えるように、と教わる。
バルシュミューデ公爵家からローラント様が到着し、すぐに馬車に乗る。エスコートする年上の婚約者は、いつもより輝いて見えた。スマートに手を取る姿は、惚れ直してしまうわ。ユリアーナもそうかしら? でもオイゲン様ってやんちゃなイメージなのよね。
予定していた店の前でおり、馬車は御者によって移動させる。馬車を止める専用の場所があるから、水を飲ませて休ませるのよ。手芸の専門店だけあって、お客さんは女性ばかり。先に中へ入るつもりが、店内で刺繍糸を物色するユリアーナを発見した。
「アナ! 先に来ていたのね?」
「ごめんなさい、ちょっと見るだけのつもりで夢中になっちゃって」
ユリアーナの手には、すでに六色ほどの刺繍糸が……あら、後ろのオイゲン様の手にも積んであるわ。全部買うの? というか、そんなに刺繍する気? 疑問に思って尋ねたら、意外な答えが返ってきた。
「侍女達にも希望を聞いて頼まれた糸を買ってるから、全部私が使うわけじゃないわ」
「侍女……」
侍女って、あの侍女よね? 使用人の……。ユリアーナによれば、ケンプフェルト公爵夫人を見習ったらしい。使用人の環境改善や休みの日のお小遣いなど、いろいろ聞きながら糸を選んだ。つい私も買い過ぎちゃったわ。それからカフェに移動して、さらに話が弾む。
ローラント様とオイゲン様は、意外なことに他国の慣習について盛り上がっていた。留学経験があるローラント様は、いろいろ知っているから。男二人が甘いものをつつく隣で、私達はケンプフェルト公爵家の状況を話題にほろ苦いチョコレートを摘まむ。
凄く有意義だったわ。今度遊びに行きたいと伝え、約束を取り付ける。お母様にも教えて差し上げましょう。公爵夫人が大好きなお母様だから、きっと喜ぶわ。はしゃぎすぎて、突撃しないようお父様も同席していただきましょうね。




