50-1.(ヴェンデルガルト)私の大切な友人
貴族の頂点である公爵家に生まれて、特に不自由もなく育った。母は社交に忙しいし、お父様は仕事ばかり。くるんと巻いた金茶の髪が自慢なの。八歳になるまで、特別な友達はいなかった。正直、必要ないと思っていたわ。
家にいれば使用人がすべて整えてくれるし、読書が好きだった。お茶会に参加するより本を読んでいるほうが好きで、弟とは真逆だわ。あの子は友人を増やしまくって、悪さしてばかり。立場の低い貴族の子を揶揄ったり、泣かせたり。いつもお母様が手を焼いていた。
いつか大きな失敗をするのでは? そう思いながらも、私は関わる気がなかった。家が潰れるほどの騒ぎになる相手がいないから。他国の王族辺りにやらかしたら問題だけど、そんな賓客がいる場所にあの弟を連れて行くはずがない。
国内でも王族はいるけれど、第一王子はかなり年上だし、第二王子だって私より上だわ。心配いらないと思う。きっと相手にされず不貞腐れるくらいよ。もしくは、王族の警護をする騎士に叱られる程度。そう思っていたのに……。
「赤ちゃんみたいだ」
弟はお茶会でやらかした。それも王室主催の王宮内でのお茶会、一番格式が高いのに……。いくらお子様もどうぞと言われても、あの子を連れて行くなんて。お母様のミスよ。やらかした相手は、筆頭公爵家のケンプフェルトの跡取りだった。最悪じゃないの!
普段交流があるバルシュミューデ公爵家なら、なんとかなるのに。よりによって交流がなかったケンプフェルト公爵家、それも跡取りよ? 公爵夫人も怒らせてしまったかも。でも夫人が収めてくれたので、それ以上揉めることはなかった。馬鹿な弟が恥をかいたのは自業自得ね。
それがケンプフェルト公爵家と私の最初の出会い。今まで交流がなかったのに、公爵夫人が嫁いで来たら方針が変わったみたい。王妃様、バルシュミューデ公爵夫人、お母様……次々と女性を虜にするケンプフェルト公爵夫人に興味を持った。
紆余曲折あって、繋がったのは公爵夫人の妹ユリアーナよ。彼女は素敵だわ。私の表面上の『お友達』という名の顔見知りじゃなくて、本当の意味で友人に望んだ。優しくて賢くて、礼儀正しいのにお転婆で。魅力的過ぎて隣をキープしないと! と焦ったわ。
「ねえ、ヴェル。今度一緒に街へ行かない? 護衛にそれぞれの婚約者を連れて」
「いいわね、アナ。新しい手芸専門店が出来たの。刺繍糸が欲しいわ」
「え? 本当に? 私も刺繍は得意なのよ。お姉様は苦手で……うふふ、先日も代わりにハンカチへ刺繍してあげたの」
意外だわ。ケンプフェルト公爵夫人は刺繍が苦手なのね。淑女の嗜みとされているけれど、せいぜいが家族や婚約者へプレゼントするだけ。売るわけじゃないし、腕を磨いても「素敵ですわね」で終わってしまう。
そういった意味では、刺繍のプロに頼んだほうが効率的だわ。公爵夫人はほかに才能があるんですもの。ユリアーナから公爵夫人の話を聞くのも楽しみ。お母様に素敵なカフェも聞いておかないと。新しい情報を常に仕入れるのが、淑女ですもの。
まずはローラント様に外出できる日を聞いて、ユリアーナと予定を合わせましょう。それから着ていく服を選んで、お母様やお父様に外出の許可も頂く必要があるわね。思いついた順番に従い、便箋にペンを走らせた。




