49-2.(ランドルフ)喜んでくれるといいな
お菓子を焼く相談をしたら、公爵夫人が料理人に手配をしてくれた。勝手に厨房を使えば迷惑をかける。だから話してもらうのは大事だ。粉や卵を並べる料理人は、手伝うつもりみたいで。
「お願いします」
「おねがぃ? しましゅ」
意味が分からないながらも、レオンも隣で繰り返す。以前の俺はそこまでお行儀がいい奴じゃなかったと思う。だから実家の使用人が俺を見たら、変化に驚くだろう。でもレオンの見本にならないと、そう思ったら自然と丁寧になった。
にこにこするレオンはまだ眠そうだ。目をこするから理由を聞いたら、楽しみで早く起きたらしい。部屋を走り回って遊んだあと、こうなった。体調不良とは違うから、いっか。公爵夫人も止めなかったし。
ケンプフェルト公爵家では、奥様である公爵夫人が一番上だ。偉いとか怖いとか、そんな意味じゃなくて。何を決めるにも公爵夫人の意見が尊重される。公爵閣下も、夫人の意見を聞いて動くんだ。その公爵夫人が問題ないとしたなら、それが正しいはず。
「まずは卵と牛乳を混ぜて……そうです。それから粉を篩いましょう」
「ぼくも!」
用意された台の上に立って、レオンがわくわくしている。粉を混ぜるときは危険と聞いているので、料理人に任せる予定だった。説明して、その後から手伝ってほしいと話す。ふんふんと真剣に聞いたレオンは、笑顔で頷いた。
こういう聞き分けがいいとこ、可愛いよな。でも騙されそうだ。絶対に将来変な女に引っかかるか、詐欺に遭ってお金を取られるか、どっちかだな。兄上が友人にそう話していたから、間違いない。聞き齧った言葉ばかりで意味がよくわからないけど、危険なのは理解していた。
用意された生地を平らに伸ばした料理人が「どうぞ」と譲ってくれた。丸い型抜きを置いて、レオンに押してもらう。抜いた生地を鉄板に並べた。二人で繰り返すと、あっという間に鉄板がいっぱいになる。これ、夢中になれるし楽しいな。
レオンと一緒に生地がなくなるまで頑張って、最後に残った小さな塊はそのまま焼いた。後ろで別の料理人が砕いた木の実を載せたり、粉にした砂糖を掛けたり。俺には上手に出来ないから任せて、レオンと二人でお礼を言って部屋へ戻った。
「甘い香りがするわね」
待っていた公爵夫人と休憩して、絵本を読む。レオンは目を輝かせて、ドラゴンと戦う話を聞いた。これさ、ドラゴンと戦うっていうか……ドラゴンも一緒に戦う話だよな? お気に入りの話らしい。レオンは誰も傷つかない話を好むのよ、笑う公爵夫人に納得した。
だからレオンはいつも優しいのか。お昼寝の後で、焼きあがった菓子を二人で包む。レオンは両親や使用人の分、俺は実家の分だ。綺麗な袋に入れてリボンで結び、籠に入れて自室へ運んだ。
母上、喜んでくれるといいな。
翌日、あまりに喜ぶ両親の姿に「父上、仕事は?」と尋ねてしまい、うっかり泣かせるなど。いや、父上も一緒で嬉しい。でも仕事に行ったと思っていたから……ごにゃごにゃと口の中で告げて、抱き着いて誤魔化した。これはレオンから習ったんだぜ。効果が高いことは実証済みだ。
俺の焼いた菓子を食べながら両親とお茶を飲み、これまた領地視察を切り上げた兄上が加わって……賑やかな夕食に突入した。成長したと思ってもらえたかな?




