32-1.(マルレーネ)流行の発信源
王宮から出かけるのは、護衛や侍女が大量につく。仕方がないけれど、窮屈なのは事実だった。それでも息子のカールハインツに次ぐ権力者になった今、好きにさせてほしい。あの夫の所為で搾取された人生だったの。自覚させてくれた恩人の屋敷へ向かう馬車の中、可愛い娘の頬に触れた。
「あんね、これぇ」
明らかに周囲の同年代の令嬢より、発育が遅い。心配する私に、アマーリア夫人は微笑んだ。個人差があるものですよ、と。慰めや阿る言葉だったなら、すぐに気づいたわ。でも、ごくごく当たり前のように自然に言われた。
「レオンもゆっくりした子なので、きっと気が合います」
前妻の子を愛おしそうに見つめ、アマーリア夫人はさらりと付け足す。ゆっくりした……その表現にほっとした。そうよね、ルイーゼもゆっくりした子なのだわ。すとんと胸に言葉が落ち着く。ざわざわと騒いだり、ちくちく痛んだりしなかった。
レオンとルイーゼは本当に気が合うようで、仲良く温室で花を摘んで遊ぶようになった。いつもお茶会で彼女を呼びつけてしまうから、数回に一度は出向くようにしている。準備するほうが大変という夫人もいるけれど、温室で子供達を遊ばせるだけだもの。
シュミット伯爵家の子達も、素直で真っすぐな子ばかり。アマーリア夫人が事実上育てたと聞くけれど、やはり褒めて育てるのかしら? 実際に見てみたら、相手によるみたいね。エルヴィンやユリアーナは褒められることが多く、ユリアンは叱られている。それでも笑顔が絶えないし、兄妹に確執はなかった。
カールハインツとローレンツのように、軽い喧嘩はしても仲直りができるの。ルイーゼも兄二人と同じように関われるように、私がしっかりしなくては。
馬車から降りて、できたばかりの温室へ向かう。途中で、何かが飛び出した。毛玉? 続いて、下働きの少女が飛び出し「すんません」と詫びて、毛玉を追いかける。驚いていたら、公爵家の家令が説明した。毛玉は猫で、下女は世話係?
「猫って、あの……猫、よね?」
困惑した顔の家令に、伝わらない話をしたと苦笑いが浮かんだ。
「高位貴族は飼わないと聞いているわ」
遠回しな表現に、家令は察して頷く。
「はい、その猫でございます。若様がどうしてもと強請り、奥様や旦那様が許可されました」
いま、さりげなく公爵より公爵夫人のアマーリアを先に口にしたわね。つまり、アマーリア夫人が飼うと決めた。すごく興味がそそられるわ。
家令経由で、猫も温室に呼べないか尋ねた。温室に現れたアマーリア夫人の後ろに、侍女達が猫を抱いている。
「猫が無礼を働くかもしれませんわ。お許しくださいね」
そう前置きして、猫達は下ろされた。子猫ばかり、三匹ね。シロ、ミア、サビーネ? 不思議な名付けだわ。走り回る猫達を見ながら、私は「猫も流行しそう」と感じていた。だって、流行の発信源であるアマーリア夫人が飼っているんですもの。
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_( _*´ ꒳ `*)_新作公開!!
【わたくしは何も存じません】
やり直し、群像劇、冤罪による処刑から始まる物語……なのに、独立後はほのぼの!
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