463.悪阻だったみたい
お医者様の診断から、どうやら初めて結ばれた夜に宿ったらしいと知る。あの後、しばらく二人で過ごさなかったから、着床日は確定だった。
今日倒れたのは、悪阻の症状の一つと聞いた。貧血もあるようなので、食事内容の変更も指示されたわ。その辺はイルゼやフランクが対応している。任せて大丈夫そうね。
輪切りのレモンを浮かべた水を貰い、一口ずつゆっくり飲む。先ほど感じた吐き気はなかった。悪阻は大変だと聞いたことがあるけれど、私は初経験だ。人によって症状が違うから、普段と違うことはすぐに話すよう言われた。
吐き気がない人もいるし、ひたすら食べる人もいるらしい。私は貧血による眩暈と、吐き気かしら。他にも出てきたら、レオンを構ってあげられなくなる。不安からそう溢したら、出産経験者二人が教えてくれた。
イルゼは悪阻が重かった方だが、一ヶ月ほどで楽になった。食べる症状が出たマーサも、数週間で落ち着いたそうよ。ほっとする。イルゼ達がサポートするので、悩み過ぎないよう注意を受けた。
そうね、赤ちゃんにも良くないわ。まったく兆候が見られないお腹に、手のひらを当てる。じわじわと温もりを共有した。ヘンリック様は屋敷中の段差をなくすと言い、フランクやベルントを連れて歩き回っているわ。ふふっ、助かるより面白いの方が強い。
「おかぁ、しゃま……いもぉ、ちょ」
「妹かしら、弟かもしれないわ。どちらでも仲良くしてくれる?」
やや赤い目元を、冷やしたタオルで拭う。大人しく任せるレオンは「うん」と返事をした。褒めてから、レオンの手を掴む。お腹に当てて、上から私の手で覆った。
「ここ、いもーと?」
「そうよ、中にいるの。レオンはお兄ちゃんになるのよ」
ぱちぱちと瞬き、自分の手を置いた私の腹を眺め、また私の顔を見た。
「おにぃ、たん?」
「お兄ちゃんになったら、この子を守ってほしい」
「うん」
力強く頷き、レオンは嬉しそうに笑った。その後はごろんと寝転び、膝に頭を乗せてお腹に話しかけている。
「ぼくが、おにぃたん……いもぉと、はぁく……でて、ね」
可愛いこの言葉を、録音して残したいわ。こういう時、前世の文明の利器が欲しくなる。ないもの強請りしても仕方ない。私の記憶にしっかり焼き付けて残しましょう。
「体は大丈夫か。妻の時は吐き気が酷くて、食べられなかったが……何か口にできるか?」
おろおろするお父様の後ろで、抱き合う双子。自分も混ざりたかったと言わんばかりのオイゲン……苦笑いのエルヴィン。それぞれの個性がよく出ているわ。悪阻が落ち着くまで、レオンには寂しい思いをさせないよう、気をつけなくちゃ。




