表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/468

40.旦那様が思ったよりまともね

「このような小娘に名乗る必要はない!」


 無礼どころか、非礼ですわ。この意味、旦那様もさすがに理解できますわね? 片方の眉尻を上げ、無言で旦那様を睨む。これで理解できないなら、レオンを連れて屋敷を出る必要がありそう。


 この老人は、公爵夫人を小娘と言い放った。己の肩書きや名を告げることなく、貴族として最低限の礼儀すら怠ったくせに、使用人がいる前で私を軽んじたの。それは私の名誉を貶すより重く、公爵家の面目を潰す行為だった。


 何も言わずに見逃がせば、ケンプフェルト公爵家が(あざけ)られる。そもそも旦那様が若くして公爵家を継いだ理由は、父親の無能さにあると思うの。誰にでもキャンキャン噛みつく小型犬が公爵だなんて、王家も迷惑したでしょう。


「っ、父上、今の発言は……ケンプフェルト公爵家を軽んじたも同然だ。撤回していただきたい」


 ぎりぎり堪えているが、怒りの滲んだ声が漏れ出る。食いしばった歯の間から絞る怒りの響きに、お年を重ねただけの先代は反発した。


「なんだと?! 貴様、この父に逆らうのか!」


「父上こそ、最低限の礼儀と立場を弁えるべきだ。今後、王都屋敷への立ち入りを禁じる!! フランク、この老人を領地へ返送しろ。許可が出るまで幽閉し、外へ出すな!」


 ようやくご理解いただけたみたいね。両腕を組んで、顎を反らした私の前で家令が連れてきた騎士達が、先代公爵を拘束する。公爵家当主の命令がある以上、先代だろうとその言い分が優先されるはずはなかった。うるさすぎて、口に布を押し込まれている。


 連れ出される姿を確認し、イルゼがお茶を交換した。誰も手を付けなかった紅茶は冷めてしまい、申し訳ない気持ちになる。イルゼは紅茶を淹れるのが本当に上手だもの。


「手を付けずに片付けさせて、ごめんなさいね」


「公爵夫人ともあろう者が謝るな」


「旦那様、使用人に謝ったのではありません。私はイルゼという有能で親切な女性のお茶を台無しにしたことに、申し訳ないと思ったのです。必要な礼や謝罪を省くなど、失礼な行為ですわ。さきほど、旦那様もお父上を悪いと仰ったのですから、ご理解いただけますわね」


 何か言いたげだが、旦那様は口を噤んだ。カップを引き寄せ、湯気の出るお茶を一口。私も来客用のソファに腰掛け、しっかり味わった。無言のまま壁際に戻ったイルゼだが、その表情はどこか柔らかい。誰だって、自分の仕事を認められるのは嬉しい。お世辞じゃなく、本当に素晴らしい味だもの。


 褒めて何が悪い。申し訳ないと思ったら謝って、どんな禍があるの。むっとした感情のまま、旦那様を無視して立ち上がった。最低限の義務として言葉だけ残す。


「私はレオンのところに戻ります。何かあるなら、旦那様が足を運んでくださいね」


 遠回しに私は用がないと言い切った。こういう嫌味って、男性より女性の方が得意だと思うの。女性同士の争いって陰険で、どこまでもずる賢い。真っ黒な手を隠して、異性の前で可憐に振る舞うのよ。まあ、私は苦手な方だけれど……レオンの為なら出来る。


 ぐっと拳を握って踵を返した。


「待ってくれ……さきほどの、レオンに危害を加えた、とは……」


「フランクに尋ねたら知っていますわ」


 後ろに従うイルゼを連れて、廊下に出た。ほっとして肩から力が抜ける。旦那様が先代そっくりな人でなくて、良かったわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
_( _*´ ꒳ `*)_綾雅の書籍です、買ってください!←直球w

  ▼ ここから無料で読めます! ▼
02-0.jpg
  ▽ クリックしてamazonの作品ページへ! ▽
02-1-1.jpg

02-2.jpg

04.jpg

03.jpg

01.jpg

― 新着の感想 ―
[良い点] 夫人がつよい [気になる点] 使用人に謝るのは駄目という認識は夫婦共通? [一言] 面白いです
[良い点] 旦那との関係改善の端緒になったりするのでしょうか。 [気になる点] 先代公爵、使用人たちの人望も地の底だった感が有りますね、 領地(領民)や、王宮・貴族社会での評判はどうだったのでしょう。…
[一言] この旦那さん理論立った口撃ならグサグサ刺さるんだから親よりだいぶマシですが、 それも萎縮せず逆上せず理論立ててストレートに言ってくれる奥さんのおかげですね。 家庭のことは素直に奥さんに転がさ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ