289.思いつきは首を絞める
王太后様も参加するお茶会を開く。話を聞くなり、わっと使用人が動いた。翌日には招待状が発送される。というのも、付き合いがあり問題なさそうな貴族家は、事前に把握しているらしい。
家令の仕事は、本当に幅広いのね。この公爵家の細かな采配もして、他の使用人の働きもチェックして……いつ寝ているのかしら。念の為に、ヘンリック様に伝えておいた。フランクにも休みは必要だもの。彼が倒れたら、数日で混乱しちゃうわ。
「奥様、お呼びした貴族家はほぼ出席の回答です」
「え、早い……」
招待状を出した翌日の昼には、ほとんどの返答が揃っていた。やはり王太后様が出席するとなれば、簡単に欠席もできないわよね。マルレーネ様効果がすごい。感心しながら、参加する家のリストを受け取る。錚々たる家名を二度見した。
公爵家はわかるけれど、侯爵家もほぼ参加だ。加えて有名な家がずらりと……一番爵位が低いのは男爵家だが、この家は元は商家で平民だった。納税額が大き過ぎて、功績に対して爵位を渡したと聞いている。伯爵家なのに、ほぼ納税がなかった実家とは雲泥の差ね。
フランクが選び抜いた家名に頷き、配置表を差し出すベルントに微笑む。もうここまで準備できたなんて。家同士の力関係や親族の繋がりは、彼らの方が詳しいから任せることにした。女主人のやることは、彼らの決めた内容に目を通して把握するくらいね。
有能な使用人が揃っているから、私は楽ができるわ。そう思ったのも束の間、侍女長のイルゼが大量の食器を部屋に持ち込んだ。食堂の長いテーブルへずらりとお茶のカップや皿が並ぶ。
「こちらが今回使用する食器の候補になります。希望があれば、指示をください」
「……多過ぎて選べないわ」
ずらりと色別にグラデーションになっている。この家でこの食器を使うのは、公爵一家だけ。つまり三人なのよ。お茶会用とはいえ、用意されているのが恐ろしかった。もしかしたら、一生埃をかぶって……それはないわね。この家の使用人が、食器の埃を許すはずがない。
飾られて終わるはずだった食器達を眺め、私はぽんと手を叩いて提案した。
「テーブルによって、食器の色を変えたらどうかしら。招待客の好きな色は不明でも、テーブルによってクロスや食器を変えたら楽しいでしょう?」
隣は赤で、自分達は青。そんな違いも楽しめるといいのでは? 簡単な思いつきで口にしたが、イルゼは考え込んでから頷いた。
「趣向の一つとして、取り入れてみます。珍しい事例なので、何か理由をつけていただければ幸いです」
まさかの宿題付きだった。通常はやらないことだから、一歩間違うとマナー違反になるのかも。もしくは全員分の茶器が揃わなかったと嘲笑されちゃうとか。
きちんと考えないと、ケンプフェルト公爵家の名に泥を塗ってしまう。私は食器を揃える選択をせず、色を違える理由を探し始めた。少しして、レオンが色鮮やかな絵を描いた様子にヒントを得る。
「絵画よ! 絵をコンセプトにして、それぞれのテーブルを色分けするの」
思いつきって、その時は素晴らしいけれど……行動に起こすのが一苦労なのよ。数時間でそれを思い知ることになった。




