202.後はマナーの確認だけ
バランスを見るために運び込まれた衣装は三着。私とヘンリック様とレオンよ。どうやらヘンリック様は仕事の調整に成功したみたい。または、どうあっても休むつもりなのかも。
今回は紫がポイントカラーで、全体に淡い水色と紺が使われていた。女性のドレスはフリルや刺繍、レースで飾るため、華やかになる。男性は形が決まっているし、飾りが少ないので同じ形になりやすいの。それを襟の形やシルエットの変化で、まったく違う衣装に見せるのはプロの技術ね。
感心しながら眺める間に、仕立て屋が伯爵家分の衣装を運び込んだ。お父様は同行しないと聞いたけれど、四着ある。紺色なら、今後も着用の機会がありそうだわ。同じ紫のポイントカラーだけれど、伯爵家の方が赤紫ね。私達は青が強い紫だった。
似ているけれど、微妙に違う。並ぶとわかる色合わせに口元が緩んだ。家族だけれど、家門は違う。そう示すのにぴったりだった。エルヴィンは半ズボンを卒業し、大人のスーツに近い形だ。襟や袖に赤紫の刺繍が入っていた。胸元にスカーフで差し色してもいいわね。
ユリアーナはフリルの縁を赤紫でかがり、胸元や襟に同色の糸で刺繍がされている。少し背伸びした印象になるかしら。上品でいいわ。お揃いで作られた双子のユリアンは半ズボン。サスペンダーのような紐が肩を通る。そこに赤紫の二本線が入っていた。さらに水色のブラウスにも、小さな刺繍がある。
「どれも素敵だわ。さすがは本職ね」
褒め言葉に、仕立て屋の顔が綻ぶ。腕もいいし、センスも最高だわ。急いで間に合わせてくれたのも、ポイントが高い。お金の支払いはフランクが手配するので、私は口にしないのがルールだった。
並んだ服をじっくり眺め、処理の丁寧さや刺繍の美しさにうっとりする。実は刺繍の腕が自慢できないレベルなのよ。できなくはないが、上手ではない。微妙な感じね。恋愛結婚だと、婚約期間にハンカチやクラバットに刺繍を刺したりする。それがないだけでも、とても助かった。
余計なことを考えながら、刺繍に触れた。本当に美しい。このくらい上手に刺せたら、刺繍も楽しいでしょうね。
「奥様、署名をお願いいたします」
「わかったわ」
金額欄を見ないようにしながら、さらさらと署名した。高額だけれど、あの衣装の代金としたら妥当だった。これで準備は終わり、明日から弟妹のマナーチェックをしなくては。
「俺、ピアノの練習してくる」
衣装合わせが終わった途端に、ユリアンはさっさと部屋を出ていく。呆れ顔のエルヴィンの横で、ユリアーナはくるくると回った。レオンが手を叩いて喜んでいる。
「あにゃ、きれぇ」
「ありがとう、レオン様。お姉様もありがとう」
双子なのに、本当に対照的な二人だわ。




