201.可愛いハムスター紳士
眠る前に「同じお部屋にいるわ」と説明し、起きたら「目が覚めたのね、レオン」と抱き寄せる。これを数日繰り返したら、レオンは悪夢をみなくなったらしい。にこにこと起きて、ぎゅっと抱きつく。本人が満足するまで待って、顔を上げたら温かなタオルで拭いた。
今日も満足したようで、笑顔を振り撒く天使はご機嫌だ。用意したおやつを食べさせるが、甘いお菓子は禁止した。お茶会などで食べるのはいいが、普段からジャムや砂糖を使ったお菓子ばかりでは健康に悪い。豊かさの象徴として、横に広がるのはどうかと思うの。
幼い頃は頬がぽっちゃりしているのが可愛いけれど、ぼてっと膨らむのは違う。レオンは最近、かた焼きというお菓子に夢中だった。お煎餅に近いが、材料は豆と小麦の粉を混ぜたもの。貴族は食べないだろう硬さに、フランク達は難色を示した。
ところが、与えてみたらレオンのお気に入り。小さな豆が入っている部分まで、かじかじと歯を立てて進む。ピーナッツに似た木の実を皿に並べ、また豆を目指してかた焼きを食べた。マナーとしてはアウトなのだけれど、ハムスターみたいで可愛いのよ。
齧ったお煎餅部分が頬を膨らますし、噛む音がかりかりと規則的に響くし。微笑ましいと感じたのは私だけではなかった。マナーにうるさいイルゼも、注意しないで口元を緩めている。
「おかぁしゃま、からあき」
「かた焼きを用意しましたよ。どうぞ」
さすがに抱き上げて運ぶのは、まだ早いと医者に止められている。そのため、小さな紳士は私の手を握って、テーブルまで誘った。嬉しそうなレオンと並んで座り、ぽろぽろ溢れる破片を指先で摘んでは、ハンカチの上に運ぶ。この時間が至福なの。
「レオンは歯が丈夫なのね」
ユリアーナはにこにこしながら、二枚目のかた焼きを差し出す。先日から、お茶会に同席させているのだ。豪華なお菓子が出ると予想していたユリアンは、少しがっかりした様子だった。食べ慣れたかた焼きを、がりっと勢いよく齧る。
エルヴィンは迷った末、手で半分に割ろうとして失敗した。上品に食べるのは無理よ、普段通りにしなさいと伝える。このお菓子がバルシュミューデ公爵家で出るはずはないから、ちゃんとした茶菓子で練習させるべきかしら。
明日からにしましょう。まだお茶会まで四日もあるわ。この後、仕立て屋が伯爵家の衣装を持ってくる。試着して、直しがあれば公爵家の針子に任せるらしい。この屋敷って、一つの街かと思うくらい職人がいるのよね。保護を兼ねていると聞いて納得したけれど、その意味でも仕事を与える方がいいんですって。
貴族の義務と権利、以前のシュミット伯爵家から縁の遠い言葉だった。




