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書籍化【本編完結】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します【コミカライズ進行中】  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第二部

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175/683

175.まずは音を出すことから

 屋敷の中にいると、外の出来事に鈍くなる。今までなら外で働いて情報を持ち帰ったお父様も、離れと本邸を行き来する生活になった。王宮に勤めるヘンリック様も、まだ休暇中らしい。フランクやイルゼも、特に何も言わなかったから……気づくのが遅れたの。


「え? 国王陛下が代替わりを?」


 公爵夫人が知らないと思わなかったようで、音楽教師として訪問した三人はきょとんとした顔で頷く。席を外しているヘンリック様に、後で聞いてみましょう。驚く情報だけれど、子供達には関係ないもの。


「音楽の先生がいらしたわ。自己紹介して頂戴」


 子供達から……と考えての発言だったが、教師は自分達から名乗った。そうだった、前世と常識が違うのよ。地位の低い者から先に名乗るのが、一般的だったわ。


「弦楽器を担当するアルノー・ザイセルと申します」


「ビアンカ・レドラーにございます。ピアノから管楽器まで、一通り演奏できます」


「打楽器が得意ですが、他の楽器もお任せください。ヨハン・ボーデです」


 お父様と同年代のビアンカが一番年上かしら。アルノーとヨハンは、まだ二十代後半に見えた。高位貴族の教師は報酬が高く、その後のキャリアにも影響するらしい。ケンプフェルト公爵家の上は王族だから、人気の職場なのね。


 ユリアン、ユリアーナの双子から始まり、エルヴィンとお父様まで。まずはシュミット伯爵家が自己紹介する。続いて私でレオンなのだけれど。


「ぼくは?」


 まだなの。そんな口振りで見上げてくる可愛い義息子に、もう少しよと囁いた。抱き上げて頬擦りしたいけれど、車椅子では無理ね。


 お父様は自前のオーボエを持ち込んでいる。今回の生徒の中で、楽器経験者はお父様だけだった。私は前世でオルガンを弾いたけれど、自己流なのよ。旋律を追える程度の腕前だった。


 私が名乗り、ようやくレオンの番だ。促すと恥ずかしそうにしながら「レオンでちゅ」と笑った。キュンとしちゃうでしょう? 頬を緩めた三人は、初対面でレオンに心を掴まれたみたい。打楽器担当のヨハンが、レオンを教えてくれるはずね。


 まずは音出しから習う。ピアノやハープ、シンバルは音を出すだけなら難しくない。演奏と呼べるのは先だけれど、第一段階はクリアした。一番難しいのが、フルートね。


 縦笛のオーボエを扱うお父様が説明するけれど、ユリアーナのフルートは黙ったまま。苦戦する妹の隣で、ユリアンは鍵盤に大興奮だった。ひどい騒音だったのが、バイオリンを選んだエルヴィンだ。甲高く耳障りな音に、遠慮がちになり……。


「エルヴィン様、こうして……指を……ええ、そうです」


 耳障りな音を改善するための弾き方を、アルノーは根気強く説明した。車椅子の私はハープの大きさに圧倒され、見上げて苦笑いする。音楽隊が持っていた、小さい携帯用ので良かったのよ。まさか身長ほどもある本格的なハープが置かれると思わなくて。


 何回か音を出したら指が痛くなり、赤くなってしまう。優雅に弾きこなすのは、だいぶ先になりそうね。

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